日本茶(緑茶)の種類

私たちの日常生活に欠かせない日本茶は、非常に身近な存在です。煎茶、玉露、番茶など様々な種類がありますが、その違いについて、実はよく知らないという方も多いかもしれません。紅茶やウーロン茶も含め、実は全て同じ茶葉から出来ています。これらのお茶(特に日本茶)の種類や違いについて、改めて見ていきたいと思います。

 

お茶には様々な種類があるが、元は同じ茶葉

日本茶は緑茶の総称

お茶は、私たち日本人の生活に欠かせない飲み物です。食事と共にいただく他にも、ほっと一息いれる時、お風呂上がりや夏の水分補給にと、様々なシーンにおいて身近な存在です。

 

日本人に最も馴染み深いのは緑茶ですが、その緑茶にも様々な種類があります。煎茶や玉露、番茶の他、加工茶と呼ばれる玄米茶やほうじ茶なども緑茶の仲間であり、これらをまとめて「日本茶」と言います。つまり「日本茶=緑茶」であり、日本茶は見た目や香りのバリエーションが、非常に幅広い飲み物であると言えます。

 

また、日本以外に目を向けてみても、世界各国には様々な種類のお茶があり、それぞれ独自の楽しみ方を発展させてきました。中国や英国など、成熟したお茶文化を持つ国もあります。世界の至る所で愛飲されているお茶ですが、実は、元々同じ植物の葉が原料となっています。

 

中国南西部が原産とされるツバキ科の常緑樹「茶の樹」が、シルクロードを通って陸伝いに、あるいは大航海時代にはヨーロッパの船に乗り海路で、それぞれ世界中に伝えられたものが、現在のお茶の始まりです。つまり、世界各国様々なお茶はあれど、そのルーツは一つなのです。

最古の茶の樹「香竹箐大茶樹」

 

緑茶、紅茶、ウーロン茶の違いは発酵の度合い

現在世界で飲まれているお茶は、大きく分けて、緑茶(日本茶)、紅茶、ウーロン茶の3種類があります。原料の葉は同じですが、加工方法により、摘んだ若葉の発酵度を変えることで、色も香りも全く異なるお茶を作り出しています。

 

発酵によって、茶の葉に含まれるカテキンという成分が変化すると、お茶の色が変わります。熱を加えて発酵の働きを止める(発酵させない)緑茶は、若葉のようなクリアな緑色をしていますが、発酵が進むにつれ、黄色、茶色そして紅茶のような赤みが生まれます。

発酵度による茶葉と水色の違い(緑茶~紅茶)

 

つまり、茶葉を発酵させる度合いによって、まずは種類が大きく分かれます。

・発酵させない「不発酵茶(非発酵茶)」の緑茶(日本茶)

・発酵を途中で止めた「半発酵茶」のウーロン茶

・発酵を途中で止めずほぼ完全発酵させた「発酵茶」の紅茶

 

半発酵茶であるウーロン茶と発酵茶である紅茶は、茶葉を萎(しお)れさせてから強く揉み、発酵を促す工程を重ねて作っています。

 

日本茶とも呼ばれる程、緑茶は日本人に馴染み深いお茶ですが、その緑茶(日本茶)だけでも、栽培方法の違いや製造工程の違いにより、非常に多くの種類に分かれています。

【代表的な緑茶(日本茶)の種類】
玉露、碾茶、抹茶、かぶせ茶、煎茶、深蒸し茶、番茶、ほうじ茶、玄米茶、川柳、茎茶、芽茶、粉茶、・・・

 

茶葉の発酵を止めて作ったのが緑茶(日本茶)

お茶には発酵させるお茶と発酵させないお茶があり、緑茶(日本茶)は発酵させない「不発酵茶」に分類されるのは前述の通りです。

 

茶の葉には元々酸化酵素が含まれており、摘み取った葉は時間の経過とともに発酵(酸化)が進む性質を持っています。これは、微生物を加え、人工的に発酵させて作る味噌や醤油と違い「自家発酵」と呼ばれることもあります。

※一般的に発酵と言うと、酵母や乳酸菌のような微生物が、米や牛乳などの有機物に作用した結果、米が酒になったり、牛乳がチーズになったりする変化を指します。

一方、お茶で言う「発酵」は、「茶葉に含まれるカテキンなどの成分が酸化する現象」のことを指します。酸化は化学変化であり、微生物は介在しないので、一般的(化学的)な意味では発酵とは言いません。しかし、お茶業界では昔から習慣として、「発酵」と呼ばれています。

 

緑茶の製造では、茶葉を摘み取ったらすぐに熱を加え、酸化酵素を壊すことで茶葉の発酵を止めます。これにより、緑茶の自然な緑色や、青葉のような爽やかな香りと味わいを残すことが出来るのです。

 

摘んだ茶葉に高温の蒸気を当ててから、加熱して乾燥させる方法を「蒸し製」と言います。他にも「釜炒り製」と呼ばれる加工法がありますが、蒸し製の方が茶葉の緑色をきれいに保てることから、現在日本では「蒸し製緑茶」が主流となっています。

【緑茶(日本茶)の種類、分類】
緑茶 蒸し製緑茶
釜炒り製緑茶

 

蒸し製緑茶の歴史は江戸時代まで遡ります。京都の宇治の茶師・永谷宗円が、きれいな緑色の蒸し製煎茶を考案し、その製法が日本中に広まったと言われています。「せきれい釜」と呼ばれる大きな筒状の釜の上に、米などを蒸す際に使うせいろを載せて茶葉を蒸しますが、お茶の風味を決定づける工程であり、熟練した職人技に頼ってきました。

せきれい釜とせいろ

 

しかし現在は、大量生産に対応できる機械化が進んでいます。100℃に近い蒸気を何秒間茶葉に当てるかという、これまで職人の感覚で微調整されてきたことが、コンピューター制御に変わり、製茶メーカーそれぞれが目指す味わいや香りを精密に再現出来るようになっています。

機械による蒸熱

 

緑茶が店頭に並ぶまで

摘んだ茶葉に一次加工をしたものが「荒茶」

摘んだ直後の茶葉は、柔らかく水分を含んでいるため痛みやすく、またそのまま放置していると茶葉の発酵が進んでしまうため、なるべく時間を置かずに加工する必要があります。ほとんどは、茶畑の近隣に加工工場があり、そこで加工が行われます。

 

摘み取った茶葉に、高温の蒸気を当て発酵を止めた後、揉みながら乾燥させる一次加工を施したものを「荒茶」と呼び、原料茶として全国の製茶メーカーに出荷されています。

※緑茶(日本茶)の一次加工の手順や詳細については「緑茶の作り方」を参照ください。

 

この荒茶には、茶葉だけでなく、芽や茎の部分も混ざっているため、商品としてのお茶を製造する際には、そういった部分を取り除く作業が必要です。

荒茶

 

再生加工とブレンドを行い「仕上げ茶」になる

私たちが店頭で見かける、パックされている製品のお茶を「仕上げ茶」と呼びます。荒茶から仕上げ茶になるまでにも、いくつかの工程があり、各製茶メーカーやお茶問屋は、自社のターゲットとする消費者の好みを反映した商品に仕上げていきます。ブランディングを行い、他社との差別化を図るのです。

 

その手法には大きく2つの方法があります。1つは、「再生加工」と呼ばれる仕上げの工程です。大きさがまちまちな荒茶の茶葉をふるいにかけ、大きい茶葉を細かく切るなどして茶葉の大きさを揃えた後、もう一度火を入れ、その熱で乾燥させ、「火香」と呼ばれる香りをつけますが、銘柄や産地により、この際の火力の強さは異なっています。

 

もう1つの方法は、「合組み」です。合組みとは、それぞれ特徴の違う荒茶同士を独自の比率でブレンドすることを言いますが、これにより、お互いの良さを高め合う組み合わせを作ったり、大量生産に対応できる組み合わせにしたりと、製造者側にとってもメリットが大きい手法です。

 

このように、茶葉の栽培地、荒茶に加工した場所、そして仕上げ加工をして袋詰めをした場所は異なっている事が多い緑茶ですが、生産地をどのように商品に表示するかは、長年明確な基準が設けられていませんでした。また、ペットボトルなどの緑茶飲料に至っては、原産地表示義務もありませんでした。

 

近年、消費者の食の安心・安全に対する意識が向上する中、2017年9月に、食品表示基準が一部改正され、緑茶の原産国表示が義務付けられました。また、ペットボトルや缶入りの緑茶飲料についても、製品に占める重量が50%以上ある原材料については、原産国を表示することになっています。

 

茶摘みの時期とお茶の種類

一芯二葉、一芯三葉とは?

毎年5月の初旬になると、茶の名産地で茶摘みのニュースを目にします。立春(2月4日頃)を第一日として数えて88日目は「八十八夜」と呼ばれ、茶摘みに最適な時期の始まりです。例年5月2日頃が八十八夜ですが、農作物に被害を及ぼす晩霜などもなくなる時期になるため、農作業を始める目安としても考えられてきました。

 

前年の収穫を終えた茶の樹は、冬を迎える前に余分な枝葉を落とす「整枝」を行います。冬の休眠期間中に栄養分を蓄え、翌春になると新芽が出てきます。1つの新芽の中には6〜7枚分の茶葉の元が詰まっており、これが5月の初め頃から一斉に芽吹きます。全ての葉が開くのには5〜6日かかります。

 

このうち4〜5枚が開いた頃に摘み取られた茶葉は「一番茶」と呼ばれ、極上の煎茶となります。摘み取るのは「一芯二葉」のみです。これは、開く前の葉(新芽)が1枚と、その脇に開いたばかりの若葉が2枚という意味で、先の部分だけを手で摘んでいきます。

一芯二葉

 

この若葉はまだ柔らかく新鮮で、旨味が強いけれど渋味はあまり感じない、香り高い極上のお茶になります。

 

全ての葉が開いた後だと、先に開いていた葉は日光を浴びて成長してしまっており、一番茶ならではの若葉の爽やかな香味が出てこないため、摘み取るタイミングはとても重要です。

 

そして、八十八夜から2〜3週間経った5月中旬から下旬頃、上級玉露の一番茶の収穫がピークを迎えます。玉露用の茶葉を栽培する茶園では、直射日光を避け、柔らかいまま生育した「一芯二葉」or「一芯三葉」を手摘みで収穫します。

一芯二葉と一芯三葉

 

摘み取り時期が遅いほど、茶葉の質は下がる

一番茶の茶摘みが終わってから40日ほど経つと、次の新芽を摘み取る事ができます。これを「二番茶」といい、一般的な煎茶として広く飲まれているものです。

 

茶の樹の成長スピードは速く、暖かい地域の茶畑では年間3、4回の茶摘みを行う事ができますが、茶葉の質は下がって行きます。

府県別の茶摘み時期(一番茶、二番茶、三番茶、四番茶、秋冬番茶)

 

秋頃収穫される茶葉は三番茶や四番茶になりますが、煎茶として消費されるのではなく、番茶、ほうじ茶や玄米茶などの加工茶の原料として利用されています。

 

茶摘みの機械化

昔の茶摘みは全て手摘みで、「茶摘み女」や「摘み子」と呼ばれる女性の仕事でした。特に高級な茶葉の摘み取りは丁寧な作業となるため、1日かけても1人10キロ程度しか摘むことができませんでした。

人による茶摘み

 

大正時代に入ると、茶摘鋏(ちゃつみばさみ)が登場し、作業効率が大幅に改善されました。そして昭和30年代に入ると、バリカンの様に茶葉を刈り取る機械式の茶摘み機が開発されました。モーターを背中に背負って使う一人用、二人で使うタイプ、さらに自走するタイプと、自動茶摘み機の種類は増え、現在に至っています。

機械による茶摘み(バリカン型)機械による茶摘み(乗用型)

 

はさみを使った茶摘みでは、手摘みのおよそ10〜15倍、そして機械では実に30倍の速さで茶葉を収穫することができるようになったため、現在は、上級茶葉の収穫以外の茶摘みは、ほぼ機械化されています。

 

茶摘み作業の機械化に伴って、茶畑のつくりにも大きな変化が見られます。機械化以前は、茶の樹は1本ずつ、間隔を空けて植えていましたが、機械で茶葉を刈り取ると、本来刈り取らなくて良い古い葉や茎の部分が多く混じってしまうことが分かりました。

 

そこで、茶の樹の間隔を狭めて並べるように植える「畦仕立て(うねじたて)」に改良されました。

畦仕立てと自然仕立ての茶の樹

 

現在の茶畑は、この畦仕立てが中心です。また、鹿児島など、平地を利用した生産地では、大規模な茶畑に幅の大きな畦を作り、間の通路を広く取って、大型トラクターほどのサイズの乗用型茶摘み機を導入するなど、大量生産に対応しています。

鹿児島の茶摘み

 

レタスを包丁で切ると変色が進んでしまうように、機械で茶葉を摘み取ると、刃の部分が断面に触れることで酸化が促されてしまい、味に影響します。現在では摘み手の減少もあり、手摘みは玉露や上級の煎茶など、ほんの一部のお茶に限られていますが、手摘みのお茶の美味しさは格別です。

 

煎茶と玉露

煎茶は最も多く生産されている緑茶

日本茶とは、緑茶の総称でもありますが、日本で生産されているお茶の実に8割程度を占めるのが「煎茶」です。5月初旬に茶摘みが始まりますが、煎茶となる茶葉は、その頃摘まれる一番茶と、5月下旬~6月中旬に摘まれる二番茶の早摘みが使われます。

煎茶の茶葉と水色

 

煎茶の特徴は、すっきりした味わいと香りで、甘味と旨味、渋味のバランスが取れているところにあります。

 

茶葉は、長い間日光を浴びると渋味が増してしまうため、二番茶までに摘まれた茶葉が使用されていますが、その中でも5月に「初摘み新茶(初もの新茶)」として販売される高級煎茶は、一番茶が使われ、一番茶の遅摘みになると二級品として扱われます。

初摘み新茶

 

初摘み新茶は、とにかく高級品で、伊藤園の「お~いお茶」でも初摘み新茶を出す年がありますが、375mlで1080円と緑茶飲料としては尋常ではない価格になっています。

お~いお茶 初摘み新茶

 

また、二番茶の遅摘みと三番茶以降の茶葉や茎は、番茶、ほうじ茶や玄米茶などの加工茶の原料になります。

【緑茶(日本茶)の種類、分類】
緑茶 蒸し製緑茶 一番茶
二番茶早摘み
煎茶
二番茶遅摘み
三番茶以降
番茶
加工茶 ほうじ茶、玄米茶
釜炒り製緑茶

 

茶葉の栽培は各地で行われており、気候や、それぞれの土地の持つ条件に合う品種が選ばれています。最も多く栽培されている品種は「やぶきた」で、国内の緑茶栽培面積の約75%を占めています。

やぶきた

 

玉露は直射日光を避けて栽培される

高級緑茶として知られる「玉露」も、製造方法で分類すると煎茶の一種ですが、茶葉の栽培方法が独特です。

玉露の茶葉と水色

 

まず、樹齢が古い樹の茶葉は上質で味わい深いとされるため、樹齢の古い木を集めた茶畑を玉露専用にします。そして茶摘みの2週間前くらいから、茶畑に支柱を立て、よしず(葦で作られたすだれ)で覆って日光を遮断します。

覆下茶園覆下茶園

 

茶葉は、光合成をすると、渋味成分のカテキンが増えますが、このような「覆下茶園(おおいしたちゃえん)」で栽培し、直射日光を遮ると渋みを抑え、旨み成分のテアニンをより強く感じられるようになります。

【緑茶(日本茶)の種類、分類】
緑茶 蒸し製緑茶 [覆下茶園] 玉露
[露天茶園] 一番茶
二番茶早摘み
煎茶
二番茶遅摘み
三番茶以降
番茶
加工茶 ほうじ茶、玄米茶
釜炒り製緑茶

※ [ ]は栽培方法や製造方法

 

玉露の茶摘みの時期は、煎茶の一番茶よりやや遅く、例年5月中旬ごろから行われます。機械に頼らず手摘みされ、発酵を止めるために蒸気に当てて乾燥させた茶葉に、丁寧に手揉みを施した上で、数ヶ月冷蔵保存します。寝かせた茶葉は、さらに旨みが引き出され、11月初旬頃に出荷されます。

 

気軽に玉露の味わいを楽しめる「かぶせ茶」

高級茶である玉露と、普段使いのお茶である煎茶のちょうど中間にあり、それぞれの良い点を合わせ持つのが「かぶせ茶」です。一般の煎茶と同じ、畦仕立ての茶畑の樹を、新芽が出る時期に薄い布で覆います。日光を遮って生育させるのは玉露と同じですが、その期間は短く1週間ほどです。

かぶせ茶の茶葉と水色

 

長期間しっかり遮光した玉露は、カフェイン含有量が多くなりますが、かぶせ茶はカフェインをそれほど多く含みません。従って、熱いお湯で入れてもカフェインの苦味・渋味は強く出ないため、玉露を入れる時ほどお湯の温度調節に気を遣わずに済みます。

 

また、直射日光を浴びた煎茶と比べると、新芽や若葉が柔らかく、また、カテキンの含有量も少なくなります。すると、茶葉に含まれる旨味成分であるテアニンがより強く感じられ、マイルドで風味の豊かなお茶となります。

【緑茶(日本茶)の種類、分類】
緑茶 蒸し製緑茶 [覆下茶園] [2週間以上日光を遮断] 玉露
[1週間程度日光を遮断] かぶせ茶
[露天茶園] 一番茶
二番茶早摘み
煎茶
二番茶遅摘み
三番茶以降
番茶
加工茶 ほうじ茶、玄米茶
釜炒り製緑茶

※ [ ]は栽培方法や製造方法

 

かぶせ茶の中心的な生産地は、四日市や鈴鹿、亀山など三重県の北部です。茶畑は畦仕立てで、茶摘みが機械化されており、また、二番茶まで使うことができるため、玉露のような味わいのリーズナブルなお茶として、効率的な経営が実現されています。

 

かぶせ茶は、玉露や上級煎茶とブレンドして利用されるだけでなく、近年は店頭でも見かけるようになってきました。また関西地方では、「熱湯玉露」という名称でも知られています。

被せ茶、熱湯玉露

 

玉露と碾茶の違いは、茶葉を揉むか揉まないか

手作業で茶葉を揉み、細く成形すると玉露になる

緑茶は、摘み取った茶葉を、すぐに高温の蒸気を当ててから、よく揉みながら乾燥させたものですが、玉露の製造では、これらの工程のほとんどが手作業で行われています。

 

乾燥と手揉みを行う「揉捻(じゅうねん)」という工程には、「焙炉(ほいろ)」が使われますが、これは、木の枠に和紙を張った揉捻台と呼ばれる作業台の下から弱火で加熱するための炉です。現在はガスバーナー式のものが主流ですが、その昔は粘土製の炉に炭火を入れて使用していました。

揉捻(回転揉み)

 

5〜6時間かけて丁寧に作業を進めることで、茶葉の組織を壊し、お茶入れたときに葉に含まれる成分を抽出しやすくします。また、仕上げ揉みの段階になると、転繰揉みといって、両手のひらを使ってお茶を擦り合わせ、茶葉を細く成形していきます。

転繰揉み

 

茶葉の柄の部分が針のように細く尖ったものを「剣」と呼び、茶葉に剣が付いていることが、良質な玉露の条件とされます。

茶葉の剣

 

最近は機械で揉捻を行った玉露も市場に出回っていますが、手揉みと比べて味も遜色のないレベルになっています。機会があれば、ぜひ目で見て確かめ、飲み比べをして欲しいと思います。

 

茶葉を揉まずに乾かすと碾茶になる

茶道で使われる「抹茶」は、どうやって作られているかご存知でしょうか?

抹茶の茶葉と水色

 

抹茶の原料になっているのは「碾茶」と呼ばれる緑茶(日本茶)の一種で、玉露と同じ覆下茶園で栽培され、手摘みされた葉を使います。玉露との違いは、茶葉に蒸気を当てた後、揉捻(手揉み)を行わない点です。葉を広げたまま乾かし、葉脈などの筋を取り除いて作ります。

碾茶の茶葉

 

他の緑茶は、お湯に茶葉の成分を抽出して飲むため、茶葉をよく揉んで組織を壊す必要がありますが、抹茶の場合は碾茶を石臼で細かい粉末にしたものを、お湯で溶かして茶葉ごといただくので揉捻は行いません。

碾茶を挽いて抹茶にしている様子

 

碾茶の場合、茶葉を蒸した後は、そのまま乾燥機で水分を飛ばし、荒茶の状態で密閉し、立冬の頃、茶の湯の「口切りの茶事」で開封されるまで、低温で熟成貯蔵されます。これによりまろやかな味わいとなります。

※口切りの茶事:その年の新茶(碾茶の新茶)を初めて使って催す茶事(茶会)。毎年11月に行われる。「口切り」とは、保存している容器(茶壺)の封を切ること。

 

現在は冷蔵庫で行われる貯蔵ですが、かつては宇治と京都の間にある山深い上醍醐や、京都市の北西に位置する愛宕山など、涼しい土地で夏の間保管されていました。また、乾燥工程も以前は焙炉(ほいろ)を使い、茶葉を一枚一枚丁寧に返しながら乾燥させていました。いかに抹茶作りに手間暇をかけていたかが分かります。

【緑茶(日本茶)の種類、分類】
緑茶 蒸し製緑茶 [覆下茶園] [2週間以上日光を遮断] [揉捻有] 玉露
[揉捻無] 碾茶 →[粉末化]→ 抹茶
[1週間程度日光を遮断] かぶせ茶
[露天茶園] 一番茶
二番茶早摘み
煎茶
二番茶遅摘み
三番茶以降
番茶
加工茶 ほうじ茶、玄米茶
釜炒り製緑茶

※ [ ]は栽培方法や製造方法

 

加工に一工夫することで美味しくなった深蒸し茶

長時間蒸すことで、渋味が減少し甘味が際立つ

「深蒸し茶」は煎茶の一種です。普通の煎茶は、摘み取った茶葉を30〜60秒程度蒸しますが、深蒸し茶の場合は、その2倍~3倍の1~3分程度蒸すのが特徴です。

深蒸し茶の茶葉と水色

 

深蒸し茶は、煎茶よりも渋味が控えめでまろやかな甘味を感じられます。これは、蒸気の熱を多く当てることで、渋味成分のカテキンが減少するためと考えられています。

 

高温処理をすることで葉の繊維質が壊されるため、完成した茶葉は細かく砕けています。抽出すると濃い緑色の美しいお茶が楽しめますので、水出しで入れるのに向いています。また、カテキンが少ないため、熱いお湯で時間をかけて入れても、渋くなりにくいのでいいでしょう。

煎茶と深蒸し茶の比較(茶葉、水色)

 

深蒸し茶の発祥は、静岡茶中部の牧ノ原台地とその周辺地域です。明治時代から開墾が始まり、茶の生産を行なっていたのですが、その茶葉は渋味が強いものでした。

 

そこで昭和30年代に、ある農家が加工方法を見直し、蒸し時間を長くすることで渋味を抑えることに成功したのです。この加工方法は現在、三重や狭山など他の産地にも広がっています。

【緑茶(日本茶)の種類、分類】
緑茶 蒸し製緑茶 [覆下茶園] [2週間以上
日光を遮断]
[揉捻有] 玉露
[揉捻無] 碾茶 →[粉末化]→ 抹茶
[1週間程度
日光を遮断]
かぶせ茶
[露天茶園] 一番茶
二番茶早摘み
[30~60秒
程度蒸す]
煎茶
[1~3分
程度蒸す]
深蒸し茶
二番茶遅摘み
三番茶以降
番茶
加工茶 ほうじ茶、玄米茶
釜炒り製緑茶

※ [ ]は栽培方法や製造方法

 

高温処理のデメリットは、お茶本来の香りが飛ぶこと

お茶の香りは、大きく分けて2つの要素で成り立っています。一つは、茶葉が本来持っている草の香りです。もう一つは、製茶の最終工程で、火を入れて茶葉を乾燥させる際に生まれる「火香」と呼ばれる独特の甘さを持った香りです。

 

長時間蒸気に当てることで、深蒸し茶は渋味が抑えられ、味わいがまろやかになりますが、失われるものもあります。それは、お茶本来の香りです。

 

緑茶には、およそ200種類の様々な香り成分が含まれていますが、その中で代表的なのは「青葉アルコール」と呼ばれる揮発性の成分で、これが植物特有の青臭い香りの元です。

 

お茶から立ちのぼる若草の香りを、私たちは鼻から吸い込み、また口に含むと嗅覚神経も刺激することで感じ取っていますが、深蒸し茶の製造工程ではこの新鮮な香りが失われてしまうのです。一方、普通の煎茶には、青い若葉の香りがしっかりと残ります。

 

仕上げ工程で火香をまとわせ香り高く

深蒸し茶を作る際には、茶葉本来の香りを失う分、仕上げの乾燥工程で強めに火入れをして、火香をしっかりつけることで香りを補っています。また、低級茶葉など、葉の香りが元々弱いものも同様に、高温の火入れを行います。

 

火入れの目的は、香りづけだけでなく、茶葉をしっかり乾燥させて貯蔵に適した状態にすることもありますが、現在は、それぞれの産地や茶葉の品質、消費者の嗜好に合わせた個性を出すための工程として重要視されています。

 

上級の茶葉は、茶葉の色合いや光沢感を生かすためにも、80℃〜110℃という低温での火入れを行いますが、ランクが低い茶葉を使う場合、熱風乾燥に加え、120℃〜140℃に熱した鉄板で炒って香味を強めるなど工夫されています。代表的なものは「狭山茶」で、荒茶を半年ほど寝かせ、高温の火入れを行っています。

 

庶民の毎日に欠かせない番茶

番茶は普段飲み用に作られた低級の煎茶

「番茶」は、低級品の煎茶のことで、遅摘みの二番茶、三番茶以降の茶葉や成長した硬い葉を原料にしています。そのため、来客用やお使い物ではなく、普段使いのお茶とされています。

番茶の茶葉と水色

 

なお、番茶の「番」は、番傘や番下駄の様に、貸出用に番号をふって数を揃えていたものから転じて、「粗末な、普段使いのもの」という意味を持つ接頭語です。

 

元々は農家の人が自分たちで飲むために、栽培していたお茶が始まりだと言われています。米や野菜といった、優先度の高い作物の収穫がひと段落ついた後に摘み取り、加工を行っていたため、晩摘みの意味を持つ「晩茶」という字があてられることもあります。

 

「川柳」は一番茶の出物で作られた上級番茶

番茶の語源は、低級品の遅摘みの二番茶、三番茶以降の茶葉や摘み残された硬い茶葉から作られたお茶でしたが、現在は、それ以外の茶葉も原料に用いられています。例えば、上級の煎茶や玉露を作る際、大きすぎる芽や葉、茎の部分などは、選別の際にふるい落とされ、番茶として店頭に並んでいます。

 

その中でも、一番茶の出物(製茶工程でふるい落とされた副産物)を集めて作られた上級番茶があります。茶葉の形が柳のように見えることから、「川柳(かわやなぎ)」と呼ばれています。

川柳の茶葉と水色

 

不揃いで見栄えは良くありませんが、上級茶葉を使用しているため、渋味成分のカテキンが少なく、旨味成分のテアニンが多いのが特徴で、爽やかであっさりとした味わいです。

【緑茶(日本茶)の種類、分類】
緑茶 蒸し製緑茶 [覆下茶園] [2週間以上
日光を遮断]
[揉捻有] 玉露
[出物] 川柳(上級番茶)
[揉捻無] 碾茶 →[粉末化]→ 抹茶
[出物] 川柳(上級番茶)
[1週間程度
日光を遮断]
かぶせ茶
[出物] 川柳(上級番茶)
[露天茶園] 一番茶
二番茶早摘み
[30~60秒
程度蒸す]
煎茶
[出物] 川柳(上級番茶)
[1~3分
程度蒸す]
深蒸し茶
二番茶遅摘み
三番茶以降
番茶
加工茶 ほうじ茶、玄米茶
釜炒り製緑茶

※ [ ]は栽培方法や製造方法

 

刈り落とした枝や葉も番茶の材料になる

茶畑では、一番茶や二番茶の摘み取りの後、次の茶摘みのために茶の樹の枝を刈りそろえます。ここで刈り取られた古くて硬い葉や茎を集めて作ったものを「刈り番茶」といい、最も低級の緑茶です。「番柳」や「親子番茶」など、呼び方は地方により様々です。

 

また、秋から初冬にかけて刈り取った枝葉が原材料の「秋番茶」「秋冬番茶」もあります。

 

これらは、そのまま番茶として飲用にされるよりも、ほうじ茶や玄米茶などの加工茶の原材料として利用される方が圧倒的に多くなっています。

 

京番茶は飲むだけでなく食べるもの

京番茶はスモーキーな香りと香ばしさがくせになる

番茶は、日本の各地域の庶民の生活に根付いたお茶であり、名称だけでなく、その定義や製法も地域差が大きいのが特徴です。

 

京都では、番茶と言えば「京番茶」を指すのですが、独特のくせがあるため、初めて口にした方は非常に驚くのではないでしょうか。

京番茶の茶葉と水色

 

覆下茶園で玉露や碾茶を摘み取った後、残った大きくて硬い葉や枝をはさみで刈り取ったものが原料です。蒸した後も、硬すぎて揉むことができず、そのままの形で天日乾燥したものを、出荷前に大きな鉄釜で強火で3分ほど炒ったら完成です。

 

つまり、「ほうじ茶(揉捻しないほうじ茶)」のことを京都では「京番茶」と言います。京番茶というネーミングは、京都の茶の老舗が、ほうじ茶を東京で販売する際に付けたと言われています。

【緑茶(日本茶)の種類、分類】
緑茶 蒸し製緑茶 [覆下茶園] [2週間以上
日光を遮断]
一番茶 [揉捻有] 玉露
[出物] 川柳(上級番茶)
[揉捻無] 碾茶 →[粉末化]→ 抹茶
[出物] 川柳(上級番茶)
一番茶を摘み取った
後に刈り取る葉や枝
加工茶
[焙じる]
京番茶
[1週間程度
日光を遮断]
かぶせ茶
[出物] 川柳(上級番茶)
[露天茶園] 一番茶
二番茶早摘み
[30~60秒
程度蒸す]
煎茶
[出物] 川柳(上級番茶)
[1~3分
程度蒸す]
深蒸し茶
二番茶遅摘み
三番茶以降
番茶
加工茶 ほうじ茶、玄米茶
釜炒り製緑茶

※ [ ]は栽培方法や製造方法

 

落ち葉を集めたような見た目と、スモーキーな強い香りに抵抗を感じる方も多いかもしれませんが、大きなやかんで数分煮出した京番茶の香ばしい味わいは、慣れるとくせになります。

京番茶をやかんで煮出している様子

 

京都や奈良、和歌山など近畿地方で広く親しまれている京番茶は、茶粥や茶飯といった食事にも欠かせない存在です。

 

京番茶を使った京都庶民の日常食「ぶぶ漬け」

京都人の気質を表す話として、「ぶぶ漬けでも食べていっておくれやす」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。ぶぶ漬けとは、食事の最後に、少しだけ残したご飯の上に漬物やちりめんじゃこ、塩昆布などを乗せてから、京番茶をたっぷりと注いでいただくシメのご飯(お茶漬け)のことです。

ぶぶ漬け

 

つまり、ぶぶ漬けを勧められたら、「そろそろ帰って欲しい」ことを遠回しに伝えられている訳ですが、京都の人は、夕ご飯やお酒のシメだけでなく、軽く済ませたい朝ご飯にも京番茶をかけた茶飯を好んで食べています。

 

また、茶道における正式な茶会を茶事と言い、懐石料理を伴ったおもてなしを指しますが、ここでも、最後には「湯斗(ゆとう)」という、おこげを湯につけたものを香の物と一緒にいただく作法があります。

湯斗

 

奈良茶粥は、京番茶で炊き上げたお粥

鎌倉時代には禅僧が、薬用として茶を飲む習慣を宋から伝えました。当時の書物には、禅寺ではお茶で炊いた「茶粥」を食していたという記録が残っています。

 

やがて茶粥を食べる習慣は庶民にも広がりました。特に奈良県では、朝ご飯にいただく「奈良茶粥」が、郷土料理として定着しました。

奈良茶粥

 

塩で味付けをした京番茶で、冷やご飯や米を柔らかくなるまで炊き上げたものが奈良茶粥です。茶粥にはそれぞれの家庭の味付けがあり、米の他に芋や豆を入れたものもありましたが、最近は食生活が多様化し、毎朝茶粥をいただく家庭は少なくなりました。

 

ブランド茶とブレンド茶

伝統のブランド茶は手作業にこだわる

機械化による大量生産が主流となった日本の製茶市場ですが、有名産地では現在でも、玉露や碾茶、また上級の煎茶の茶摘みや製造工程は、手作業にこだわっています。どの作業も、経験に裏打ちされた職人技が生かされています。

 

玉露や碾茶の揉捻を行う人を「茶師(焙炉師)」と呼び、その技術は産地ごとに流派を形成し、弟子を取って技術を伝えていましたが、明治中頃からその数は徐々に減少しています。かつて宇治では、碾茶の製造のみを行う者を茶師と呼び、天皇や将軍家のお茶を製造する茶師は「御茶師」と格式高く呼ばれていました。

 

現在では、茶葉の選定・ブレンドをする人や、お茶の判定・鑑定の段位を持つ人(茶審査技術者)も「茶師」と呼ばれています。

茶葉の選定・ブレンドお茶の鑑定

 

古くからの有名な茶の産地は、京都の宇治茶の他にも、静岡の本山茶、川根茶、埼玉の狭山茶などが知られています。これらの産地はブランド力があり、嗜好品、贈答品として支持されています。

 

茶の栽培面積は減少傾向にあり、生産量もそれに伴い減ってきていますが、銘柄茶のニーズはいまだ根強いため、生産者は様々な工夫をしてブランドを守っています。

 

昔からある銘柄茶の出荷量を維持するために、製茶問屋や加工業者は質の良い荒茶の確保を図っています。既存の生産地の近くで、味わいや香りが似ている茶葉がとれる産地からも荒茶を買い付け、既存の荒茶とブレンドし、さらに出荷直前に火入れ加工をし火香をつけるなどして商品価値を高めています。

 

産地以外での銘柄としては、玉露や高級煎茶の仕上げで選別された茎の部分を集めた、いわゆる出物の有名銘柄「雁が音(かりがね)」や、高級番茶として知られる「川柳」、また、品種で括った「やぶきた茶」なども銘柄茶の一つです。

 

合組みは、商品茶の大量生産を可能にする

茶葉は農産物であるため、天候や気温に収穫量や品質が大きく左右される特性があります。その茶葉を使い、玉露や煎茶それぞれのブランドにふさわしい品質を持つ商品を大量に作り、市場に安定的に出荷するために「合組み(ブレンド)」は有効な方法です。

 

また、ブレンドにより、味・香り・色の優れたお茶を作り出すことも出来ます。

 

同じ茶の樹であっても、山あいの茶畑で生育された茶葉は香り豊かだが渋味はあまり無く、平地の茶畑で育った茶葉は渋味を強く感じる一方香りが弱いなど、産地によって一長一短です。

 

そこで、それぞれの弱みを補い合うような配合を行い、バランスの良いお茶に仕上げます。

 

ブレンドは2段階に分けて行われます。1段階目のブレンドは生産地に隣接した荒茶工場で、その地域の様々な茶畑の荒茶を組み合わせて、大量で均一な品質の荒茶ブレンドにします。茶葉の栽培や荒茶の製造に関する細かいデータを把握していることが、ブレンド成功の鍵になります。

 

2段階目のブレンドは、商品茶を出荷する製茶問屋が行っています。彼らの手元には、商品茶のブランドごとの配合マニュアルがあり、それに基づいて様々な産地で異なる時期に加工された荒茶を配合しています。これにより、消費者に支持されるブランドのお茶を、品質を保ちつつ安定的に市場に送り出し、利益を確保していくのです。

 

本茶と非茶の今昔

中世には本茶と非茶とを飲みあてる「闘茶」が流行

古代には貴重品とされたお茶は、徐々に産地を増やし、やがて大量に生産、流通を始め、中世の日本では遊びに使われるようになりました。武士や公家の間で流行したのは「闘茶」です。

 

これは、2種類の茶を飲み比べて、「本茶」と「非茶」とを言い当てるというもので、点数をつけながら景品を勝ち取る賭け事の一種でした。

 

闘茶の中でも特に知られているのは、近江の佐々木導誉によって貞治5年(1366年)に催された茶会です。佐々木導誉は、その派手な風貌や型破りな生き様からバサラ大名と呼ばれていましたが、この頃の景品を賭けた大掛かりな闘茶もバサラ茶会と呼ばれ、流行しました。

闘茶の様子(祭礼絵草子より)

 

本茶とは「本場の茶」を意味しており、最上級の茶として貴重な存在でした。山城国栂尾産のものだけが本茶を名乗ることができましたが、室町時代中期以降は宇治茶を指すようになりました。

 

茶道に受け継がれた「茶かぶき」は、味覚の修練、娯楽

やがて室町時代中期、足利義政の時代になると東山山荘(銀閣寺)を中心とした東山文化が起こります。茶の湯文化も、村田珠光により、わび茶の精神が作り出されるなど、この時代に発達し、のちに千利休により大成されることとなります。

 

闘茶は、形を変えつつも現在の茶道にも受け継がれています。江戸時代中期に、千利休を流祖とする茶道の流派である「表千家」と「裏千家」は、修練のための7つの稽古法である「七事式」を制定しましたが、その中の一つ「茶かぶき」は、かつての闘茶の伝統を受け継ぎつつ改良を加えたものとなっています。

 

現在の「茶かぶき」は、昔のような賭け事ではなく、味覚の修練や娯楽(ゲーム)のために行われるものです。通常、玉露2種、煎茶3種の5種類の日本茶を用意し、参加者に銘柄を見せ、1つ飲む毎にどの銘柄か決めて行きます。一度決めたら変更はできないルールとなっています。

茶かぶき玉露2種、煎茶3種(茶かぶき)

 

現在の「本茶」は商品として使われる部分を指す

お茶の長い歴史の中で、かつて本茶とは栂尾産、宇治産のお茶を指していましたが、現在では、荒茶に仕上げ加工を施し、製品として出荷する時に主に使われる部分を「本茶」と呼びます。つまり、仕上げ工程の中で、選別され、ふるい落とされる副産物が「非茶」となります。

 

茶葉を収穫して一次加工をした荒茶の中には、玉露や煎茶にする場合、不要な茎や芽、葉の軸や細かく砕けて粉状になってしまった葉も含まれています。これらは仕上げ工程で規格外の「非茶」として取り除かれますが、あえてこの不要な部分を集めて商品化したのが「出物」と呼ばれるお茶です。

 

出物には、茎茶、芽茶、粉茶といった種類があり、お茶好きの通の間で人気を誇っています。というのも、出物は元々玉露や高級煎茶といった、高品質の茶葉の一部分であり、香りや味わいは本茶同様に優れているからです。

※前述の「川柳」も出物ですが、番茶として(番茶の範疇として)売られていることが多い。

 

ちなみに、緑茶以外のお茶にも出物はあります。紅茶の製造過程では「ダスト」と呼ばれる粉状の茶葉が出ます。これは、ふるい分けの際に一番最後に残る茶葉で、高品質の茶葉から出たダストは、ティーバッグや加工製品用として需要が高まる傾向にあります。

ダスト(紅茶)

 

また、中国茶の出物は「副茶」と呼ばれ、日本の緑茶と同じく通に好まれるジャンルとなっています。

副茶(中国茶)

 

出物の御三家①:雁ヶ音のブランドで有名な「茎茶」

原料を選りすぐった本茶に対し、それ以外の部分を余すところなく使っているのが出物のお茶です。荒茶を製品茶に仕上げる段階で選別された、葉柄や茎の部分を集めて作ったお茶を「茎茶」と言います。

茎茶の茶葉と水色

 

中でも、玉露や高級煎茶の茎は、茶葉の持つ甘味やまろやかさを味わうことができ、高級茎茶「雁ヶ音(かりがね)」として人気です。

雁ヶ音

 

茎茶は、さっぱりした淡白な味わいで飲みやすいお茶です。また、茎の部分に甘味があるため、熱いお湯を注いでも苦渋味が出づらく、誰でも美味しく入れることができるのも特色です。

 

出物の御三家②:玉露のような味わいが楽しめる「芽茶」

玉露や上級の煎茶は、一芯二葉と呼ばれる春先の柔らかく若い芽と葉から作られますが、仕上げ工程では、芽の先の細い部分は選別されます。これを集めて作ったお茶が「芽茶」です。

芽茶の茶葉と水色

 

高級茶と原料は同じですので、旨味成分が多く含まれコクがあり、香り高いお茶です。玉露と同じように、人肌に近い40℃程度に冷ましたお湯で入れましょう。

 

出物の御三家③:お寿司屋さんで出てくる「粉茶」

「粉茶」は、玉露や上級の煎茶の製造過程において、葉を揉むことで生まれる、粉のように細かい茶葉の破片を集めたものです。お寿司屋さんで出される「あがり」に使われるお茶と言えば分かりやすいでしょう。

粉茶の茶葉と水色

 

 

熱いお湯で入れると、カテキンを多く含んだ濃い味のお茶となり、お寿司を食べた口の中をさっぱりさせてくれます。

 

粉茶は葉が非常に細かいため、入れる時には不織布などで出来たお茶パックや茶こしを使います。最近は、金網の茶こしがついた急須も手に入ります。粉茶や深蒸し茶など、茶葉が細かいお茶をいただく機会が多い方におすすめです。

粉茶や深蒸し茶専用の急須

 

ちなみに、寿司用語として「がり=しょうが」「むらさき=醤油」などと並んで、「あがり=お茶」と解釈されている方もいるかと思いますが、「粉茶でなければ、あがりではない」とする寿司屋もあります。

 

「のどを潤す」、「口をさっぱりさせる」というように目的が異なるため、前者の場合は「お茶」、後者の場合は「あがり」とオーダーするのが正式とする考え方です。

 

なお、回転寿司においてあるものは、粉茶ではなく、「粉末茶」というもので、茶葉を粉末状にしたものです(粉茶とは別物です)。粉末茶は、客がセルフで入れることができるようにし、急須で入れるという店員さんの手間削減目的で開発されたものです。

スシローの粉末茶

 

粉茶は、形状は細かいですが、あくまで出物(副産物)であり、茶葉ですので、完全に溶かすことはできず、急須で入れる必要があります。

【緑茶(日本茶)の種類、分類】
緑茶 蒸し製緑茶 [覆下茶園] [2週間以上
日光を遮断]
一番茶 [揉捻有] 玉露
[出物] 川柳(上級番茶)
茎茶、芽茶、粉茶
[揉捻無] 碾茶 →[粉末化]→ 抹茶
[出物] 川柳(上級番茶)
茎茶、芽茶、粉茶
一番茶を摘み取った
後に刈り取る葉や枝
加工茶
[焙じる]
京番茶
[1週間程度
日光を遮断]
かぶせ茶
[出物] 川柳(上級番茶)
茎茶、芽茶、粉茶
[露天茶園] 一番茶
二番茶早摘み
[30~60秒
程度蒸す]
煎茶
[出物] 川柳(上級番茶)
茎茶、芽茶、粉茶
[1~3分
程度蒸す]
深蒸し茶
二番茶遅摘み
三番茶以降
番茶
加工茶 ほうじ茶、玄米茶
釜炒り製緑茶

※ [ ]は栽培方法や製造方法

 

香ばしさを楽しむ加工茶

さっぱりとして香ばしい「ほうじ茶」

街のお茶屋さんを通りかかると、香ばしいお茶の香りが漂っていますが、これはほうじ茶を店頭で仕上げている香りです。二番茶やそれよりも遅く摘み取られた煎茶(番茶)や、刈り番茶などの茶葉を強火で焙じた(炒った)ものを「ほうじ茶」と言います。

ほうじ茶の茶葉と水色

 

ほうじ茶の特色は、お湯を注いだ瞬間に立ちのぼる独特の香ばしい香りです。焙じた茶葉は褐色をしており、入れたお茶の色は、澄んだ赤褐色です。味わいはさっぱりしており、冷やしていただくのもおすすめです。

 

自家製のほうじ茶を楽しむこともできます。飲み切れなかった古い玉露や上級煎茶の茶葉が残っていたら、フライパンなどで空炒りします。最初は弱火で、最後に少し火を強めて仕上げ、茶葉に青さを残すのがポイントです。1回分ずつ作ると、いつも炒りたての香り高いほうじ茶をご家庭でいただけます。

 

また、最近人気の「茶香炉」を使えば、お茶の香りをお部屋のアロマとして楽しんだ後に、その茶葉で美味しいほうじ茶をいただけるので一石二鳥です。

茶香炉

 

炒り玄米とブレンドする玄米茶

水に浸してから蒸した玄米(or白米)を、きつね色になるまで炒ったものと、煎茶や番茶などのお茶をほぼ同量ずつ混ぜ合わせたものを「玄米茶」と言います。

玄米茶の茶葉と水色

 

その起源には諸説ありますが、鏡開きの時に出る餅屑がもったいないと思った茶商が考えたとも、香りが弱いお茶を美味しくいただくため、懐石料理の湯斗(ゆとう)を真似て生み出されたとも言われています。

 

市販の玄米茶の原料には、晩摘みで香りが弱い緑茶が使われることが多いため、うるち米よりもち米の方が香ばしさがよく出るなど、混ぜる玄米が味の決め手になります。

 

微妙な組み合わせの違いで、風味が大きく変わるのが、玄米茶の面白さでもあります。玄米を購入してご家庭でも作れますので、ぜひ色々な組み合わせを試し、自分だけのベストな配合を見つけてみるのも面白いかと思います。

【緑茶(日本茶)の種類、分類】
緑茶 蒸し製緑茶 [覆下茶園] [2週間以上
日光を遮断]
一番茶 [揉捻有] 玉露
[出物] 川柳(上級番茶)
茎茶、芽茶、粉茶
[揉捻無] 碾茶 →[粉末化]→ 抹茶
[出物] 川柳(上級番茶)
茎茶、芽茶、粉茶
一番茶を
摘み取った
後に刈り取る
葉や枝
加工茶
[焙じる]
京番茶
[1週間程度
日光を遮断]
かぶせ茶
[出物] 川柳(上級番茶)
茎茶、芽茶、粉茶
[露天茶園] 一番茶
二番茶早摘み
[30~60秒
程度蒸す]
煎茶
[出物] 川柳(上級番茶)
茎茶、芽茶、粉茶
[1~3分
程度蒸す]
深蒸し茶
二番茶遅摘み
三番茶以降
番茶
加工茶 [焙じる] ほうじ茶
[炒り玄米と
ブレンド]
玄米茶
釜炒り製緑茶

※ [ ]は栽培方法や製造方法

 

新茶もバリエーション豊富になっている

「初摘み新茶」は摘みたての茶葉の香りを楽しむ

日本人ほど季節の移り変わりに敏感な民族はいないのではないでしょうか。四季折々の旬の食材をいただくことで、私たちは季節を舌で感じてきました。中でも、旬の走りに当たるのが初物で、日本人は特に目がないと言われます。

 

例年5月上旬になると、「初摘み新茶(初もの新茶)」が市場に出始めます。これは、八十八夜を迎えて摘み取った、最初の茶葉で作られたお茶です。

初摘み新茶

 

最近ではさらに早く、鹿児島など南九州で4月に収穫したお茶が、東京などでも手に入るようになりました。「走り新茶」と呼ばれる物で、初摘み新茶同様、爽やかで若い青葉の香りを純粋に楽しむことができます。

走り新茶

 

まろやかな「口切り新茶」と、いつでも春を感じられる「蔵出し新茶」

一方、伝統を重んじる京都の老舗のお茶屋さんでは、この初摘み新茶を扱わないところも多くあります。これは、「口切りの茶事」が11月初旬に行われることから、煎茶の新茶もその時期までは出さないことにしているからで、それまで荒茶のまま冷蔵保存され、旨味を蓄えるのです。

※口切りの茶事:その年の新茶(碾茶の新茶)を初めて使って催す茶事(茶会)。「口切り」とは、保存している容器(茶壺)の封を切ること。

 

口切りの茶事は、茶の湯の世界では茶人の正月とも言われる行事です。最も格式が高く正式な茶事として、懐石料理が供され正午頃に行う「正午の茶事」の形式で催されます。夏の間封印し貯蔵された新茶は、11月初旬になると茶家の元に届けられます。そして、この席で初めて、封を切って取り出した碾茶を石臼でひいたものを客に振る舞うのです。

口切り前の茶壺口切りの様子

 

抹茶は、深い甘味とコクが感じられ、鮮やかで濃い緑色をしたものが理想とされています。甘味があり、香り高い上質な抹茶は濃茶としていただき、苦渋味が目立つようであれば薄茶としていただくのが中心となります。

※濃茶(こいちゃ):濃度の濃い抹茶。「おこい」とも言う。
※薄茶(うすちゃ):濃度の薄い抹茶。「おうす」とも言う。

濃茶と薄茶

 

京都では、碾茶と共に夏の間熟成された玉露や煎茶も、熟成により生まれた味の深みと、まろやかな香りをまとい、この時期に出回り始めます。これを「口切り新茶」と言います。

口切り新茶

 

一方、熟成の働きを抑えるために冷凍庫で休眠させた緑茶は、「蔵出し新茶」と呼ばれます。秋でありながら、春の若草の香りを楽しむことが出来る訳です。

蔵出し新茶

 

冷蔵・冷凍保存による品質管理技術が進歩した現在、年間いつでも新茶の爽やかな香りを楽しむことが出来るようになりました。お茶にうるさい日本人にとっては嬉しい進歩であり、今後もお茶の需要は拡大していくでしょう。

【緑茶(日本茶)の種類、分類】
緑茶 蒸し製緑茶 [覆下茶園] [2週間以上
日光を遮断]
一番茶 [揉捻有] 玉露
[出物] 川柳(上級番茶)
茎茶、芽茶、粉茶
[揉捻無] 碾茶 →[粉末化]→ 抹茶
[出物] 川柳(上級番茶)
茎茶、芽茶、粉茶
一番茶を
摘み取った
後に刈り取る
葉や枝
加工茶
[焙じる]
京番茶
[1週間程度
日光を遮断]
かぶせ茶
[出物] 川柳(上級番茶)
茎茶、芽茶、粉茶
[露天茶園] 一番茶
二番茶早摘み
[30~60秒
程度蒸す]
煎茶 新茶4月
[保存なし]
走り新茶
新茶5月
[保存なし]
初摘み新茶
新茶11月
[冷蔵保存]
口切り新茶
新茶11月
[冷凍保存]
蔵出し新茶
普通煎茶
[出物] 川柳(上級番茶)
茎茶、芽茶、粉茶
[1~3分
程度蒸す]
深蒸し茶
二番茶遅摘み
三番茶以降
番茶
加工茶 [焙じる] ほうじ茶
[炒り玄米と
ブレンド]
玄米茶
釜炒り製緑茶

※ [ ]は栽培方法や製造方法