緑茶

緑茶は、私たち日本人にとって欠かせない飲み物ですが、玉露や煎茶、ほうじ茶など、茶葉の種類ごとに美味しさを最大限に引き出すための「最適な温度」や「間合い」などをご存じでしょうか?

 

また、緑茶をより美味しくいただくための茶器の選び方、茶葉の買い方や保存方法についても知っておくと、今よりもっと緑茶を美味しく嗜むことができます。緑茶を美味しく飲むための基本知識について見ていきましょう。

 

緑茶に含まれる成分と、それぞれが持つ味を知ろう!

渋味のカテキンと苦味のカフェイン

緑茶は「日本茶」とも言われるほど、日本人の食卓には欠かせない飲み物です。バランスのとれた旨味と苦渋味が、緑茶の美味しさの決め手となっていますが、このうち渋味を構成するのが「カテキン」と呼ばれる成分です。またカテキンは、抽出したお茶の水色や香りを生み出す元でもあります。

※水色:入れた時のお茶の色。「すいしょく」と読む。

 

カテキンは太陽の光を浴びると増えるため、緑茶の場合、摘み取る時期が遅くなればなるほど、カテキンの含有量が多くなります。例えば、一番茶に含まれるカテキンは8〜12%、二番茶は20%前後と、一番茶は二番茶の半分程度となります。

 

また、玉露や碾茶、被せ茶などは、専用の茶畑で日光を遮って育てるため、茶葉に含まれるカテキンの量はさらに少なくなり、渋味を抑えて旨味を引き出しています。

覆下茶園覆下茶園

 

カテキンは、茶葉の加工時に高温で加熱されると酸化して性質が変化します。そのため、ほうじ茶や深蒸し茶などは、加工工程で高温処理が行われるため、カテキン含有量の少ない、渋味が少ないお茶となります。

 

ほのかな苦味も緑茶の美味しさの一つの要素ですが、この苦味を作っているのは「カフェイン」です。

 

カフェインと言えば、コーヒーをまず思い浮かべるかと思いますが、コーヒー豆に含まれるカフェイン量は約1%程度ですが、緑茶の茶葉には2~4%程度のカフェインが含まれています。

※コーヒー一杯、緑茶一杯を入れるのに使用される豆量、茶葉量は同じ分量ではないので、コーヒー一杯、緑茶一杯のカフェイン含有量は上記とは異なります。

コーヒー豆と緑茶の茶葉

 

緑茶の中でもカフェインがより多く含まれているのは、日光を遮って育てた玉露や碾茶などの茶葉や、芽吹いたばかりの若葉です。

 

お茶の苦渋味は、その入れ方によって大きく変わります。茶葉に含まれるカテキンやカフェインは、注ぐお湯の温度が高ければ高いほど、多く抽出され、お茶の苦渋味が増していきます。従って、渋味、苦味を適度に抑えた緑茶を飲みたい場合は、低めの温度のお湯で入れると良いでしょう。

 

旨味や甘味を生み出すのはテアニン

緑茶には、アミノ酸も多く含まれています。アミノ酸は、様々な食品に含まれ、旨味や甘味といった美味しさの鍵を握る成分として知られていますが、緑茶に最も多く含まれるアミノ酸の一種「テアニン」は、玉露を味わう時に感じる何とも言えない上品な旨味を生み出しています。

玉露の茶葉と水色

 

テアニンは、茶樹の根の部分で作られ、葉に移動してきますが、ここで日光を浴びるとテアニンがカテキンに変化します。つまり、旨味が渋味に変わってしまうわけです。

 

そこで、玉露や碾茶を栽培する際には、芽吹いてから茶摘みまでの2週間ほど、茶畑の上に「よしず(葦で作られたすだれ)」を被せて日光を遮ることで、茶葉の旨味を守ります。

覆下茶園覆下茶園

 

カテキンやカフェインの量は、抽出するお湯の温度によって大きく変わることは前述の通りですが、テアニンについても同じことが言えます。テアニンの場合は、温度の低いお湯に溶け出しやすい性質のため、比較的低い温度のお湯で入れると、テアニンを多く含んだ旨味の濃いお茶になります。

 

言うまでもなく、緑茶の美味しさは旨味だけでは表現できません。旨味・甘味・渋味・苦味のバランスが取れて、初めて美味しいお茶になります。それぞれの成分は、入れる際のお湯の温度によって溶出する量が変わるため、温度管理が緑茶の味の決め手であると言えます。

 

ビタミン類が豊富なのに、緑茶が健康食品にならない訳

ここまで、味や香り、水色に影響するお茶の成分について見てきましたが、それ以外にも、緑茶の茶葉には、私たちの健康に役立つ成分が含まれていることをご存知でしょうか?

 

例えば、緑茶には、ビタミンCがほうれん草の3倍といわれるほど豊富に含まれています。また、カロテンはニンジンの10倍近い量が含まれています。

 

カロテンは、体内に摂取するとビタミンAに変換して作用するため、ビタミンCやEとともに、抗酸化作用によるがん予防の効果が期待されている成分です。このように聞くと、積極的に緑茶を飲みたくなりますが、緑茶だけで十分なビタミン摂取は期待しない方が良いでしょう。

 

なぜなら、私たちは茶葉をそのままいただくのではなく、急須にお湯を注いで、溶け出した成分を飲んでいるからです。茶葉に含まれる様々な成分のうち、カテキン、カフェイン、ビタミンCなどは6〜7割が溶け出しますが、カロテンやビタミンEはお湯には溶けないため、摂取することはできません。

抽出した緑茶を注ぐ

 

茶葉の成分を全て摂取することができるのは、抹茶です。抹茶は、碾茶を石臼で細かくひき、お湯を加えて溶かしたものなので、茶葉ごといただくからです。それでも、私たちの健康を左右するほどの量を摂取することは期待できません。

碾茶を挽いて抹茶にしている様子抹茶を入れている様子

 

三食後だけでなく、朝晩のくつろぎタイムにもと、最も頻繁に緑茶を飲んでいる人でも、1日にせいぜい7回くらいでしょう。一回に急須に入れる茶葉の量をだいたい4gと考えても、1日の合計で28gです。緑茶は、健康に直接的な効果をもたらすものではなく、リラックス効果が得られる飲み物だと捉えるべきでしょう。

 

美味しい緑茶を入れるために、知っておくべき水の扱い方

美味しい緑茶を入れるには名水がベスト

私たちが日常飲んでいるお茶は、茶葉にお湯を注いで抽出した成分が溶け込んだものです。つまり、そのほとんどは水であり、「どんな水を使って緑茶を入れるか」が、緑茶の美味しさを決定づけると言っても過言ではありません。また、上質な緑茶ほど、その風味は水質に影響を受ける傾向があります。

 

お茶のルーツである中国では、唐の時代に『茶経』という茶書が著され、その後の茶の教えの基本とされています。

茶経

 

その中でも、お茶を入れるための水について触れられていますが、「上等なのは山の湧き水(清水)、中等なのは川から汲んできた水、そして下等なのは井戸水など地下に湧き出た水である」と書かれています。

 

日本でも、古来よりお茶を入れる水は「名水」が良いとされてきました。この名水は、「名高い清水」であると、広辞苑では定義されています。カルシウム塩やマグネシウム塩などのミネラル分を多く含んだ硬水の天然水ですが、一度沸騰させると軟水に変化するのが特徴です。

 

茶道では、「名水点(めいすいだて)」と呼ばれる伝統的なお手前(作法)が、現代にも受け継がれています。

 

これは、京都の場合、名水と名高い「醒ヶ井(さめがい)」、「利休井戸」、「宇治橋の三の間」で汲んできた水を使ってお茶を点てるもので、水指に注連縄(しめなわ)をはり、特別な水であることを客に知らせます。このような作法も、水の善し悪しがお茶の美味しさを左右することの表れでしょう。

名水点

 

今や、コンビニやスーパーの店頭には、名水や天然水を謳ったペットボトル入りの水が多く並ぶようになりました。ですがこれらは、厳密には天然水と呼ぶことはできません。

ペットボトル入りの名水、天然水

 

というのも、日本では食品衛生法上、すべての水はボトル詰めの際に加熱殺菌を行わなければならないからです。人工的な処理を行っていないもののみ、天然水と呼ぶことができます。

 

緑茶を美味しく入れることができる水は、ミネラル分をほどよく含んだ自然のままの水です。もちろん、そのまま飲んでも美味しい水です。

 

名水を使わずに美味しい緑茶を入れるには、水道水が一番適している

現代の都市生活において、山の湧き水や綺麗な川に流れる水を手軽に手に入れることはできません。それでは、どうやって美味しい緑茶を入れれば良いのでしょうか?

 

現代において、美味しい緑茶を入れるのに適した水は、「蛇口を開いて、しばらく出しっ放しにした後に汲んだ水道水」です。

出しっ放しの水道水の

 

以前は、「水道水は美味しくない」、「カルキ臭など嫌な臭いがする」といったことがありましたが、現在はほとんどの水道局が高度浄水処理システムにシフトしていますので、このようなことはありません。

※高度浄水処理システム:以前の浄水処理よりも高度な浄水処理方法。以前は取り除くことのできなかった微量の汚れや臭いの元を除去することができる。

 

東京都などでは、水道水をペットボトルに入れて販売しており、ミネラルウォーターよりも水道水(高度浄水処理した水道水)の方が美味しいというのをアピールしているほどです。

ペットボトル「東京水」

 

蛇口を開いてしばらく出しっ放しにするのは、水道管に滞留していた古い水道水は使わずに、新鮮な水道水を使うためです。

 

このように、新鮮な美味しい水をいつでも簡単に手に入れることのできる時代になっていますので、これを使わない手はありません。

 

なお、高度浄水処理により、臭いは除去されていますが、ご自宅の水道管(or水道管の一部)に金属管が使用されている場合、水道水から金属臭がすることがあります。

 

しばらく出しっ放しにすれば、臭いが無くなる場合がほとんどですが、それでも気になる場合は、臭いは揮発性ですので、一度完全に沸騰させれば、臭いが気にならないレベルになります。お茶を入れる際には、水を沸騰させますので、そこで臭いは消えて無くなります。

 

緑茶には、上手に煮沸したお湯を使おう!

ご家庭で美味しい緑茶を入れるためには、水(水道水)をしっかりと沸騰させることが重要です。そのためには、沸騰の段階を目で確認できることが大切であり、煎茶道では、湧き出る泡の大きさを元に、次のように分類しています。

 

①松濤(しょうとう)

沸騰の最初の段階では、サーッというさざなみにも似た音が聞こえてきます。湯の中の泡は小さく、松の枝が風に揺れる様子に例えられることから、このように呼ばれます。

松の枝が風に揺れる様子

 

②蟹眼(かいがん)

さらに加熱すると、泡の大きさは蟹の眼ほどの大きさになり、それがいくつも連なって立ち上ってきます。これはまだ沸騰と呼べる状態ではありません。

蟹の眼

 

③魚眼(ぎょがん)

次第に泡は大きくなり、やかんの底から次々に沸いてきます。この時お湯は完全に沸騰しており、泡は魚の眼と同じくらいまで大きくなっています。

魚の眼

 

煎茶道では、お湯を沸かす時は三段階目の「魚眼」に到るまで、十分に沸騰させるよう指導しています。皆さんは、これまでご家庭でお湯を沸かす時、どの状態をもって沸騰したと判断していましたか?「松濤」や「蟹眼」の段階で、火からおろしていたという方が多いかもしれません。

 

美味しい緑茶のためのお湯を沸かすコツは、沸騰を目で確認したら火を弱め、やかんの蓋を半分ほどずらし、更に1〜2分沸騰させることです。このお湯を使えば、まろやかな美味しい緑茶を入れることができます。ただし、沸かしすぎもNGですので、沸騰後1~2分でおろしましょう。

 

美味しい緑茶を入れるためには、お湯を沸かす道具にも気を配る必要があります。鉄瓶で沸かしたお湯は鉄分を含んでおり、茶葉に含まれるカテキンと反応して味に影響が出ます。玉露のように旨味を引き出したいお茶を入れる場合だけでなく、煎茶などでも同様です。

鉄瓶はNG

 

鉄分と反応してカテキンが変質するのを避けるためにも、内側がテフロン加工されているやかんや湯沸かしポットを使いましょう。

内側がテフロン加工されているやかん湯沸かしポット

 

また、新鮮な沸かしたてのお湯を使うことも大切です。例えば、一度沸騰させた後放置して時間が経ってしまったお湯を再沸騰させたり、長い時間沸騰させすぎたお湯では、美味しい緑茶を入れることはできません。

 

どちらも、お湯の中の空気が抜けてしまっており、茶葉に注ぎ入れた時、急須の中で十分に対流せず、茶葉のエキスを抽出する働きが弱くなっているからです。

 

お茶を飲むたびごとに、新鮮な水をしっかり沸騰させ、そしてそれぞれの茶葉に最適な温度まで冷まして使うという手間こそが、美味しい緑茶を入れる基本です。

 

緑茶の種類ごとに異なる抽出温度の基本パターン

緑茶の美味しさの決め手は、お湯の温度と間合い(抽出時間)

緑茶の味は、旨味や甘味と渋味、そして苦味により構成されており、それに茶葉の香りと美しい若草のような水色を合わせて楽しむ飲み物です。

美味しそうな緑茶

 

玉露、高級煎茶、さらに普段使いの煎茶と、茶葉の種類により、味わいの構成比や特徴は様々です。それぞれの良さを最大限に引き出す鍵は、「何℃のお湯で、どれくらいの間合いをとって入れるか」にかかっています。

 

基本的には、温度が低いお湯で入れる時はゆっくり抽出し、温度が高いお湯で入れる時は間合い(抽出時間)を短めに取ると、その茶葉の持つ特徴的な味わいを楽しむことができます。あえてその茶葉らしくない味にしたい場合は、そのルールを破ればいいのです。

 

何よりもまず、茶葉ごとの最適な抽出温度の基本を知っておく必要があります。例えば、玉露や上級煎茶の特徴である甘味を堪能するには低温抽出がいいのですが、もしそれを知らずに熱湯を注いでしまったら、渋味成分カテキンが大量に溶出し、せっかくの旨味成分テアニンを感じられなくなってしまうからです。

 

温度、間合い、アレンジの基本テクニック

玉露を美味しく入れるのに最適な温度は、人肌くらい、つまり40〜45℃がいいとされています。ですが、一般のご家庭で玉露を入れる場合、これよりもかなり高い温度にしているケースが多く見受けられます。

【緑茶の種類別の標準的な入れ方(3人分)】
緑茶の
種類
茶碗数 茶葉量
(大さじ)
お湯の温度 お湯の量 間合い
(抽出時間)
お茶の
抽出量
1碗の量
上級玉露 3碗 10g
(山盛り2杯)
40~45℃ 60cc 150秒 42cc 14cc
普通玉露 3碗 10g
(山盛り2杯)
50~60℃ 60cc 120秒 39cc 13cc
上級煎茶 3碗 10g
(3杯)
60~70℃ 150cc 90秒 100cc 35cc
普通煎茶 3碗 10g
(3杯)
80~90℃ 250cc 60秒 175cc 60cc
番茶 3碗 10g~12g
(山盛り3杯)
沸騰 400cc 30秒 280cc 90cc
ほうじ茶 3碗 10g~12g
(山盛り3杯)
沸騰 400cc 30秒 280cc 90cc

※茶葉量は、1人あたり平均3g、人数が多い場合は少なめに、人数が少ない場合は多めにします。
※間合いは、急須にお湯を入れ始めてから、最後の一滴を茶碗に注ぎ終えるまでの時間です。

 

機会があれば、一度人肌まで冷ましたお湯で入れた玉露を味わい、その強い旨味や甘味を感じていただきたいと思います。

玉露を入れている

 

旨味が持ち味の玉露とは違い、それ以外の緑茶は、これよりも高い温度で入れます。煎茶は、旨味・甘味だけでなく渋味や苦味も大切な要素ですので、熱いお湯を使い、カテキンやカフェインを抽出するわけです。上級の煎茶の場合は60〜70℃、普段使いの煎茶ですと80〜90℃で入れるのが良いとされています。

煎茶を入れている

 

また、急須にお湯を入れてからお茶碗に注ぐまでの長さ、つまり「間合い」をどの程度とるのかも、緑茶の味を左右します。例えば、お湯を注いでから時間が経過すると、カテキンよりもカフェインの抽出量の方が多くなり、苦味と渋味のバランスが崩れ、いわゆる「苦いお茶」になってしまいます。

 

お湯の温度と間合いとの基本的なバランスを知り、その上でアレンジすることによって、同じ茶葉を使って違った味わいのお茶を入れるテクニックを身につけてみてはいかがでしょうか。

 

例えば、苦味の強いお茶で口をさっぱりさせたいなら、高級煎茶に熱湯を注ぎ、気持ち長めに間合いをとってみましょう。いつもとは違う苦渋味が広がるだけでなく、上級煎茶の茶葉ならではの甘味が後味となるなど新鮮な味わいが楽しめます。

 

反対に、同じ高級茶葉に、適温よりもぬるいお湯を注いでみると、旨味や甘味がより強く現れながらも、煎茶らしい苦渋味とのバランスも感じられ、美味しくいただけます。人肌のお湯で入れる玉露よりは温度が高めなので、多めに入れて、喉の渇きをいやす時にもおすすめの飲み方です。

 

お湯の温度の見分け方と冷まし方の目安

美味しい緑茶を入れるために大切なのは、「お湯の温度」と「間合い」ですが、次に、適温を見分ける方法についてお話しましょう。

 

上級者は湯気の様子を見るだけで、大体の温度が分かるといいます。要するに経験が物を言う世界ですが、慣れるまでは温度計を使い、その温度で入れたお茶の味を覚えておきましょう。

温度計でやかんの温度を測っている

 

ちなみに、経験を重ねた人は、湯気の立ち上る様子で、次のように温度を見分けています。

・やかんの口から湯気が見え始めると約50℃

・湯気の量がやや増え、まっすぐ上がると約60℃

・湯気が横揺れを始めると約70℃

・湯気の勢いが増したら約90℃

50℃の湯気の様子60℃の湯気の様子70℃の湯気の様子90℃の湯気の様子

 

また、ご家庭で緑茶を入れる場合、やかんから急須やお茶碗などにお湯を注ぐことで、およそ10℃湯温が下がりますので、それも一つの目安になります。

 

たとえば、お茶碗を2つ用意して、まず1つにお湯を入れ、次にそのお湯をもう一方の茶碗に移し、そしてそのお湯を急須に注ぐと、合わせて約30℃お湯の温度が下がったことになります。

湯冷ましの回数と下がる温度

 

お湯の温度を見分け、自在に操れるようになると、その日の気分に合わせてお茶の味わいの微調整もお手のものになります。お茶を楽しむ達人になるためにも、まずは温度や間合いを色々と試しつつ、自分好みのお茶の入れ方をマスターしてほしいと思います。

 

間合いを知り尽くして、美味しい緑茶を入れよう

お茶の葉がゆっくり開くのを待つ「間合い」は、思っているより長いもの

美味しい緑茶を入れるために不可欠な「最適な間合い」をさらに知るために、お湯を注いだ後に、急須の中で何が起こっているかについてご説明しましょう。

 

緑茶には「揉捻(じゅうねん)」という製造工程があります。摘み取った茶葉を蒸した後、熱を更に加えて乾燥させながら葉を強く揉み、擦り合わせて細長く縒る(よる)工程です。

回転揉み中揉み

 

急須の中に注がれたお湯は対流を始め、それにともなって茶葉はゆっくりと葉を開き、含まれている味わいや香りなどの成分を徐々に溶かし出します。

 

従って、緑茶の持つ茶味を十分に引き出すためには、私たちが思っているよりも長い間合いをとらなければなりません。実は、ご家庭でお茶を入れる時の間合いは、理想とされるものよりも短い場合が多いようです。皆さんは、お湯を急須に注いで、30秒もしたらお茶碗に注いでいませんか?

 

玉露であれば、人肌ほどのぬるいお湯で2〜3分、一般的な煎茶であっても1分~1分半は間合いを取る必要があります。対流するお湯の中で茶葉がゆっくりと開くのを、じっくり待つことが美味しい緑茶を入れるポイントです。慣れるまでは、時計で時間を計りながら入れてみましょう。

キッチンタイマー、スマホのタイマー

 

濃さが均等な緑茶を入れるコツ

ご家庭や職場などでお茶をいただく時は、一人ではなく何人かで一緒に楽しむ場合がほとんどでしょう。あなたはどんな手順で注ぎ分けていますか?全てのお茶碗に同じ濃さのお茶を入れるのにもコツがあります。

 

複数のお茶碗にお茶を注ぐ場合は、一つずつお茶を満たすのではなく、少量ずつ順番に回し入れるのがベストです。というのも、お茶を注ぎ始めてから注ぎ終わるまでの時間も、急須の中ではお茶の抽出は続いているため、注ぎ終わりに近くなればなるほど、お茶の味が濃くなってしまうからです。

 

したがって、必要な数のお茶碗を、輪を描くように並べ、少し注いだら隣のお茶碗へ移り、また少し注ぐことを繰り返すと、全てのお茶碗の中身が均等になります。また、何度も注ぐ動作を繰り返すことで、急須の中のお湯と茶葉がよく混ざり合い、茶葉の成分がより効率的に抽出される効果もあります。

緑茶を回し注いでいる様子

 

また、オフィスなどで、急須を使わずに自動給茶機を利用している場合でも、お茶碗で直接受けずに一旦ティーサーバーやポットで人数分のお茶を受けてみましょう。するとサーバーの中で濃さが異なるお茶が均一になり、皆で同じ味わいのお茶を楽しむことができます。

 

慣れないうちは、間合いを取る時間が手持ち無沙汰に感じるかもしれませんが、その時間は、お茶碗を温めたり、茶托を綺麗に拭くなど茶器の準備を行いましょう。

 

次第に一連の手順が体に馴染み、美味しい緑茶をいただくために欠かせない儀式となるはずです。十分な間合いを取った玉露を一度味わえば、この時間の持つ価値に気がつくでしょう。

 

間合いは煎茶道の世界でも基本

お稽古事であるお茶には、お抹茶を点てる「抹茶道」と、急須などにお湯を注いで煎茶をいただく「煎茶道」があります。煎茶道にも様々な流派がありますが、それぞれ独自の「間合い」を大切にしています。

 

お湯を沸騰させる間合い、そのお湯をちょうど良い温度に冷ます間合い、そして急須にお湯を注いでからお茶碗に入れるまでの間合いが主なものですが、それぞれの間合いには、お茶を入れ、お客様へお出しするまでの動作が、決められた所作として組み込まれます。

煎茶道のお手前

 

煎茶道では、これら全ての動作を、流れるように美しく行い、お客様に見ていただくことを目指してお稽古を重ねていきます。つまり、裏を返せば、各流派で組み立てられたお手前を忠実にこなせば、間合いが十分な美味しいお茶を入れることができるということでもあります。

 

かつてお茶は「煎じて」飲み、今は「淹れて」飲んでいる

煎茶の語源は、茶葉を煮出して飲んでいたことにある

日本に茶が伝えられたのは鎌倉時代の初めのことです。臨済宗の開祖としても知られる栄西が、宋から種を持ち帰ったのが始まりだと言われています。元々は嗜好品ではなく薬草と考えられており、抹茶のように細かくひき、お湯で溶いて飲んでいました。

栄西

 

しかし同時に、番茶の茶葉をお湯で煮出して飲む方法も存在しており、現在まで伝わっている地域もあります。この方法を「煎じる」と言い、煎茶は本来、茶葉を煮出してお茶を抽出することを指していました。

茶葉をやかんで煮出している様子

 

長い茶の歴史の中で、茶の栽培方法だけでなく、茶葉の加工法なども目覚ましい進歩を遂げました。これにより、お湯を注ぐだけで十分成分が抽出できるようになったため、現在では茶葉を煮出して飲むということは、ほとんどなくなりました。

 

煎茶式と淹茶式!煎茶道で実践されているお茶の入れ方

お稽古事としての煎茶道の中には、「煎茶」の他に「淹茶(えんちゃ)」という形式があり、お茶の入れ方の違いにより分類されています。煎茶道における煎茶式は、かつての「茶を煎じる」方法に通じるものがありますが、淹茶式は現在一般的に行われているお茶の入れ方と近い方法です。

 

煎茶式では、急須を直火にかけ、沸騰したところで火からおろします。急須の蓋を開けてひと呼吸置いたら、茶葉を急須に投入して抽出します。昔のように茶葉を入れた後グラグラと煮出すことはなくなりましたが、沸騰したお湯を冷ますことなく使用する点が、かつての煎茶に通じるとされています。

 

一方、淹茶式では、まず茶葉を急須に入れてからお湯を注ぎます。お湯が沸騰してから間合いを取って、茶葉に合った温度まで冷ましてから入れられるため、汎用性が高い方法です。煎茶道では、玉露や新茶など、低めの温度で入れる茶葉に使われています。

 

煎茶式で使われる、直火対応の急須とは違い、淹茶式で使われるのは、ご家庭で使われるのと同じ小型の急須で、茶銚(さちょう)と呼ばれ、湯冷ましとセットで用意するのが普通です。

煎茶道の道具一式

 

緑茶の種類ごとに、飲むのに最適な量は違う

玉露はほんの少しの量を「喫する」ものである

緑茶は、その種類ごとに最適な温度と間合いがありますが、一回にどれだけの量をお茶碗に注ぐのかも、茶葉の種類により様々です。

【緑茶の種類別の標準的な入れ方(3人分)】
緑茶の
種類
茶碗数 茶葉量
(大さじ)
お湯の温度 お湯の量 間合い
(抽出時間)
お茶の
抽出量
1碗の量
上級玉露 3碗 10g
(山盛り2杯)
40~45℃ 60cc 150秒 42cc 14cc
普通玉露 3碗 10g
(山盛り2杯)
50~60℃ 60cc 120秒 39cc 13cc
上級煎茶 3碗 10g
(3杯)
60~70℃ 150cc 90秒 100cc 35cc
普通煎茶 3碗 10g
(3杯)
80~90℃ 250cc 60秒 175cc 60cc
番茶 3碗 10g~12g
(山盛り3杯)
沸騰 400cc 30秒 280cc 90cc
ほうじ茶 3碗 10g~12g
(山盛り3杯)
沸騰 400cc 30秒 280cc 90cc

※茶葉量は、1人あたり平均3g、人数が多い場合は少なめに、人数が少ない場合は多めにします。
※間合いは、急須にお湯を入れ始めてから、最後の一滴を茶碗に注ぎ終えるまでの時間です。

 

この表に記載された分量は、ご家庭で入れやすい3人分になっていますが、玉露の場合、お茶碗に入る量はわずか13〜14ccです。夏目漱石の『草枕』には、玉露は飲むのではなく、喫するものだという表現がありますが、まさに私たちが普通にお茶を飲むのとは全く違うものであることが伺えます。

玉露茶碗

 

お茶の世界では、玉露は三口半で飲み切るのがマナーとされています。まず一口目で色を味わい、二口目で香りを、三口目で味を感じたら、残りの半口で吸い切って綺麗にします。

 

一見少なくて物足りないようにも思えますが、玉露の持ち味を過不足なく味わうのに最適な量が、長い歴史の中で確立されたのでしょう。

 

口に含んで味わうなら上級煎茶

上級煎茶は、玉露よりは多くいただきますが、一般的な煎茶のように喉ごしを楽しんでごくごくと飲むものとも違います。

 

上記表の通りに入れてみると、小さめの急須に大さじ3杯(10g)程度の茶葉、150cc程度のお湯となり、お湯の30%ほどは茶葉に吸収されるとして、100ccの煎茶が出来上がります。したがって、一人当たりの量はおよそ35ccになります。

 

玉露の3倍ほどの量がありますので、口全体に含んで味わい、飲み込む時に喉で今一度味わう飲み方がおすすめです。

 

ごくごくと飲んで喉ごしを楽しみたい普段使いの緑茶

一般的な煎茶や番茶、そしてほうじ茶や玄米茶など普段使いのお茶はどうでしょうか?喉の渇きを癒す時には、たっぷり注いだお茶をごくごくと飲んで、その喉ごしを楽しみたいところです。

 

上記表の通りに普通煎茶を入れてみると、お茶碗一杯の量はおよそ60cc、沸騰したお湯を直接注げる番茶やほうじ茶、玄米茶ではおよそ90ccとなります。喉が渇いた時の他、大福やお饅頭をいただきながら飲むお茶としても十分な量でしょう。

 

一煎目、二煎目と、お湯を通す毎に、緑茶は色も味も違うものになる

茶葉は二煎目までで取り替えよう!

皆さんは、茶葉は何回使いますか?色が出なくなるまで使い切るという方もいらっしゃるかもしれませんが、これはただの緑色をしたお湯に成り果てたもので、緑茶ならではの香りも味わいも消えてしまっています。

 

食堂などで、無料で提供される緑茶に慣れてしまうと、気にならないかもしれません。ですが、茶葉は二煎目までで取り替え、常に香り高い美味しいお茶をいただく習慣をつけて欲しいと思います。

食堂のお茶サーバー

 

また、気温と湿度の高い夏には、お湯を通した茶葉は非常に腐りやすいため、こまめに処分し、新しい葉を使うことをおすすめします。

 

緑茶の味わい成分の8割は一煎目で溶け出す

深蒸し茶の人気が近年高まっています。深蒸し茶は、摘み取った茶葉を普通のものより長時間蒸すことで、渋味成分のカテキンが、旨味・甘味成分であるテアニンに変化しています。

深蒸し茶の茶葉と水色

 

熱いお湯で入れても渋くなりづらく、誰が入れても美味しいお茶になることに加え、何度お湯を注いでも色がよく出る、すなわち差しが効く点が人気の理由と考えられています。

 

しかし、茶葉に含まれる養分やお茶の持つ味わいの約8割は、一煎目で溶け出てしまいます。そして、深蒸し茶もその例外ではありません。対流するお湯の中で茶葉が7〜8割方開いた頃、その茶葉ならではの旨味や芳醇な香りが得られますが、これがすなわち一煎目で味わえる茶味です。

 

二煎目で出てくるのは、色と香りがほとんどで旨味は出ない

では、二煎目のお茶はどうでしょうか?味と養分の約8割は一煎目で抽出されており、二煎目で出るのは色と香りの成分がほとんどです。

一煎目と二煎目の水色比較

 

色は一煎目よりもやや濃く出ますが、一煎目で感じた旨味や甘味はほぼ無く、軽い苦渋味が中心となるため、爽やかな香りと合わせてさっぱりした飲み口になります。

 

また、全ての緑茶が、二煎目まで楽しめるわけではありません。番茶やほうじ茶、玄米茶などは一煎ごとに茶葉を取り替える必要があります。煎茶、玉露、深蒸し茶、茎茶、芽茶、粉茶は、二煎目も楽しむことができますが、それにもコツがあります。

※緑茶の種類と定義については、「日本茶(緑茶)の種類と違いを知ろう!絶対知っておきたい日本茶の基礎知識」を参照ください。

 

前述の通り、茶葉が7〜8割方開いた時が、茶の美味しさが引き出されるタイミングです。茶葉が一度完全に開き切ってしまうと、その後、旨味や甘味はほぼ出なくなってしまいます。

 

したがって、二煎目を楽しむつもりなら、一煎目を注ぐ際に急須に水分を残さないようにしっかり注ぎ切っておきましょう。残った水分で茶葉が開き切るのを防ぐためです。

一煎目に最後の一滴まで注ぎきっている様子

 

煎茶道の世界にも、一煎目、二煎目の二服をお客様にお出しする「二煎手前」というものがあります。一煎目よりも二煎目の方がさっぱりした味わいのお茶になることを踏まえ、一煎目と二煎目の間に甘味を召し上がっていただきます。

 

お菓子の甘さと爽やかな二煎目のお茶が織りなすハーモニーを、楽しんで欲しいという気持ちが込められています。

 

茶器選びは、緑茶の種類と季節感がポイント

茶器を選ぶ際には、堅苦しいルールよりも使い勝手とセンスを重視

旨味、甘味と苦渋味とのバランスの取れた味わい、若草のような爽やかな香り、そして美しい水色が緑茶の魅力ですが、それらをさらに引き立たせて楽しむには、茶器選びも大切です。しかも、お抹茶をいただく茶器とは違い、煎茶などの普通茶の茶器選びは堅苦しいものではありません。

 

煎茶器には、磁器など、薄くて繊細な素材を使った茶器が多く、小さいサイズのものが目立ちます。また磁器のお茶碗ですので、季節感のある絵柄が色彩豊かに描かれているのも特色です。

磁器茶碗

 

入れたい緑茶の種類に合っていて、扱いやすく、そし組み合わせる他の茶器との相性が良いものであれば、好みで選んで差し支えありません。

 

急須の選び方:サイズ、季節感に加え、使いやすいデザインのものを選ぶ

急須は、緑茶を入れるために最も重要な道具であり、茶器選びにおいて最も機能性を重視すべきです。

 

中国から伝来した急須は、現在でも愛知県の常滑焼(とこなめやき)や、三重県の万古焼(ばんこやき)に受け継がれ作られています。いずれも釉薬を使わずに焼いた、マットな表面感が特徴で、使い込むうちに茶渋と馴染み、さらに愛着がわいてきます。

常滑焼の急須万古焼の急須

 

一方、磁器の急須の良さは、有田焼や九谷焼に代表される発色の良い色絵や染付の技法を使い、季節感を演出できる点です。

有田焼の急須九谷焼の急須

 

ぜひいくつか揃えて、季節ごとに急須を使い分けてみてはいかがでしょうか。おすすめは、清涼感のある青系の染付のものを春夏に、あたたかみのある赤系ものを秋冬用として使い分ける方法です。

青系、赤系の急須

 

急須は、主に取っ手の位置で4つに分類できます。手が横にあるもの、後についているもの、土瓶風に上についているもの、そして取っ手のない宝瓶と呼ばれるタイプがありますが、ご自身で持ってみて扱いやすいサイズ感で、かつ後ろからお茶が漏れるなど、機能的に問題が無ければ、好きなデザインを選んで構いません。

取っ手が横にある急須取っ手が後にある急須取っ手が上にある急須宝瓶

 

なお、後ろ漏れしにくい急須を選ぶには、注ぎ口が上の方についていて、底に向かってカーブを描くような丸みのある形状のものを試されると良いでしょう。注ぎ口から底までが一直線になっているものは、初心者には扱いが難しいため、おすすめしません。

初心者向きの急須と初心者向きではない急須

 

また、大きい急須を使うと、中でお湯と茶葉が対流し過ぎてしまい、味が濃くなってしまうため、上質なお茶を入れるには、急須は小さい方が良いというのが基本です。緑茶の種類によって異なるサイズの急須を選ぶのが、美味しい緑茶をいただく秘訣です。

 

緑茶の種類毎に適した主なサイズは次の4つです。

・玉露用:容量150cc程度(小ぶり)

・上級煎茶用:容量250cc程度(小ぶり)

・普通煎茶用:容量450cc程度(中ぶり)

・番茶、ほうじ茶用:容量800cc程度の土瓶

 

これら4種を全て取揃えるのが理想ですが、まずは、ご自身が最も良く飲む種類の緑茶を美味しく入れられる急須を選んでみましょう。

 

お茶碗の選び方:内側はお茶の色が分かりやすい白が基本

次は、お茶碗の選び方です。緑茶は、味と香りの他に、その色も美味しさを構成する重要な要素ですので、緑茶の色が分かりやすいもの、また、緑茶の色が映えるものを選ぶことが大切です。同時に、口当たりの良さと持ちやすさも選ぶポイントになります。

 

玉露や上級煎茶が持つ、鮮やかな緑色の水色を引き立てるのは、内側が白い磁器のお茶碗です。

内側が白い磁器のお茶碗

 

例外は、口切りの時期に販売される玉露です。この時期の玉露は、熟成により緑色というよりはむしろ琥珀色に近い水色が特徴ですので、青磁のお茶碗に入れると、水色が一層際立ちます。

※口切りの時期:口切りの茶事(その年の新茶を初めて使って催す茶事)が行われる時期のこと。毎年11月。

内側が青い磁器のお茶碗

 

緑茶の種類によって、お茶碗のサイズも様々なものが作られています。全てのサイズを揃えたいところですが、最も飲む機会の多い緑茶に合ったお茶碗から買い揃えて行けば良いでしょう。

 

また、緑茶の種類に合った材質のお茶碗を選ぶことも忘れてはなりません。磁器は熱伝導率が高いため、薄手のお茶碗に熱い普通煎茶や番茶などを入れると、熱くて持てません。一方、熱伝導率が低い陶器は、熱しにくく冷めにくいため、熱いお湯で入れる普通煎茶や番茶をいただくのに適しています。

磁器、陶器の茶碗

 

茶托の選び方:普段使いを意識して、使い勝手の良いもの選ぶ

茶托は、お茶碗と合わせてぜひ揃えていただきたい茶器です。その成り立ちには諸説ありますが、中国で使われていたものが日本に伝えられたと言われています。

緑茶を入れた茶碗と茶托

 

その流れを汲んだ、錫や銅といった金属製のものから、漆塗りのもの、木製のもの、更には陶器や磁器製の茶托までバリエーションは豊富です。

錫、漆塗りの茶托木製、陶器の茶托

 

来客時など、特別な時しか茶托を使わないという方も多いかもしれませんが、お茶碗とコーディネートすることで、お茶碗の美しさが引き出される効果がありますので、ぜひ積極的に取り入れて欲しいと思います。

 

形も様々なものがありますが、円形や楕円形といったオーソドックスな形がお茶碗と合わせやすく、日常的に使うのには便利です。

 

緑茶の買い方と保存方法を知り、いつ飲んでも美味しい緑茶を目指そう!

四季に応じた緑茶の楽しみ方をする

皆さんのご家庭では、季節ごとに、出す緑茶の種類を変えていますか?煎茶道の世界では、春夏には玉露、秋冬には煎茶を入れることが多いのですが、ご家庭でもぜひ、季節に合ったお茶を楽しんで欲しいものです。

 

なかでもおすすめなのは、水出しの玉露です。作り方はいたって簡単で、氷水で冷やした急須に、いつもより少し多めに茶葉を入れ、冷水を注いで10分ほど待てば完成です。甘味成分であるテアニンをたっぷり含んだ、爽やかな味わいの玉露が楽しめます。

水出しの玉露

 

暑い夏に、あえて熱いお茶もオツですが、さすがに来客用には適していません。夏に水出し玉露の爽やかな冷たさは、最高のおもてなしになるでしょう。

 

少量ずつ数種類の緑茶を買い揃える

現在、緑茶はスーパーマーケットの店頭にも並んでおり、気軽に買えるようになっていますが、機会があればお茶屋さんをのぞいてみましょう。

お茶屋さんの店先

 

かつては茶箱や茶筒をずらりと並べ、量り売りをしていましたが、最近では顧客のニーズを反映して、およそ10回分、50gという少量で販売する店舗も増加しています。

 

常に何種類かの茶葉を買い置きしておくと、その時々のシーンにふさわしいお茶を選ぶことができますし、一人のお客様に何度かお茶を出す場合にも重宝します。

お茶屋さんの棚

 

また、お茶屋さんで茶葉を買い求める一番の利点は、試飲をさせてくれる点です。お店の方は知識が豊富ですので、遠慮せずに予算と好みを伝え、選ぶのを手伝ってもらいましょう。

 

お茶を選ぶのに慣れてくると、きっと次はお茶に合わせた茶器を選びたくなり、そしてお茶と相性の良いお茶請けを揃えたいと上級者への道が開けるに違いありません。

 

緑茶の上手な保存方法

せっかくの高級な茶葉も、飲み切れず無駄にしてしまった経験はありませんか?美味しい緑茶をより長く楽しむためにも、茶葉を正しく保存する方法を知ることが大切です。

 

茶葉にとって大敵なのは、湿気と匂い、そして日光です。これらに触れると茶葉は劣化し、味や香りも落ちてしまいます。

 

50g以下の少量なら、ブリキの缶に入れて1〜2週間ほど常温保存が可能です。100g程度残っている場合は、中蓋付きの缶に入れた上で冷暗所にて保存します。2週間程度であれば、茶葉の劣化の心配もありません。

ブリキ缶、中蓋付きの缶

 

もし多量の茶葉を保存する場合は、冷蔵庫を利用しましょう。その際、茶葉を入れた缶をさらにビニール袋で覆い、庫内の臭いが移らないようにするのがポイントです。

 

常温と冷蔵の行き来を繰り返すと、容器の表面が結露して、品質の劣化に繋がります。大量に保管するなら、使いやすい分量に小分けしてから保存すると良いでしょう。

 

また、冷蔵庫から出してすぐに開封せず、少し放置して常温に戻した上で開封するようにして、急激な温度変化を避けるようにしましょう。

 

湿気った茶葉をほうじ茶として再生させる

もし茶葉が湿気ってしまっても、諦めないでください。自家製ほうじ茶として再生可能です。

 

飲み切れなかった煎茶や玉露の葉を、鍋やフライパンで2〜3分から炒りするだけで、香ばしいほうじ茶の出来上がりです。茶葉の種類や炒り加減の違いで、味や香りのバリエーションは無限に広がります。お茶屋さんでは手に入らない、あなただけの味です。

フライパンで茶葉を炒っている

 

また、インテリアアイテムとして最近話題の茶香炉を使えば、お茶の自然な香りを楽しんだ後、自家製のほうじ茶として美味しくいただけ、一石二鳥の利用法となります。

茶香炉

 

お茶のお供「茶菓子」の歴史を振り返る

古代以来長らく、お茶請けは甘い菓子ではなかった

島根県の出雲地方に伝わる「ぼてぼて茶」をご存知ですか?煮出した番茶に乾燥した茶の花を入れ、茶筅で白い泡が立つまでよく泡立てたもので、その中にご飯やおこわ、高野豆腐の煮物や漬物を刻んだものを入れ、一緒に流し込むようにいただく郷土食です。

ぼてぼて茶

 

お茶菓子と言うと、砂糖を使った甘いお菓子をイメージしますが、長いお茶の歴史を振り返ると、甘いものに限らずフルーツやナッツを加工したものからお漬物、おばんざいに至るまで、様々なものがお茶請けとして供されてきました。

緑茶と漬物

 

「菓子」という言葉はそもそも、木や草になる果実(果子)のことで、古代の日本では「神様からのくだされもの」として珍重されてきたものです。

 

千利休の時代に茶会で供されていたのは、榧(かや)や栗などの木の実が中心でした。ぼてぼて茶は、かつての日本人のお茶の飲み方の名残を、今に伝えるものだと言えるでしょう。

 

お茶に含まれるカフェインやカテキンといった成分は、胃を刺激しやすいものでもあるため、お茶請けを一緒にいただくことで、胃壁を刺激から守る効果もあります。甘くなくても、お茶のお供として何かを口に入れることには、合理性があるのです。

 

和菓子の源流は、平安〜安土桃山時代に、唐やヨーロッパから伝来したもの

平安時代には、中国から様々な文化が流入しましたが、米粉や小麦粉を甘く味付けしてこねたものを油で揚げた「唐菓子」もその一つです。

唐菓子

 

さらに、鎌倉時代にはお茶が伝えられましたが、同時にお饅頭などの「点心」も持ち込まれました。当時は朝夕の1日2食だったため、お茶を飲みながら間食する習慣が定着するまでに時間はかかりませんでした。

点心

 

日本の菓子の歴史上最も大きな転換点は、安土桃山時代に訪れました。当時の世界は大航海時代であり、ヨーロッパ各国は競うようにアジアへ進出していました。そんな中、日本に「南蛮菓子」が伝えられました。南蛮菓子とは、カステラや金平糖、鶏卵素麺など、砂糖を使った甘い菓子のことです。

南蛮菓子

 

当時、世界の砂糖貿易の主導権を握っていたポルトガルによって、「甘味」が新たな味覚のスタンダードとして世界のあらゆる地域で認知され、定着していきました。日本でも、お茶請けのお菓子に甘いお菓子が登場するようになるなど、砂糖が製菓材料として重要な存在になり、これが後の和菓子の発展の礎となりました。

 

ですが当時、砂糖は国内生産されておらず、大陸からの貴重な輸入品の一つでした。日本が本格的に砂糖の国産化に舵を切るのは、江戸時代中期になってからです。

 

茶の湯文化が発展させた京の上生菓子、煎茶文化が生み出した江戸の雑菓子

京都で茶の湯文化が隆盛を誇るようになると、こなしや練り切りといった「上生菓子」、また打ち物や押し物といった「干菓子」がお茶菓子として独自の発展を見せ始めました。

上生菓子干菓子

 

これらの元になっているのは、平安時代に唐から伝わった「点心」の中でも、胡麻団子や桃饅頭のような甘い点心「甜点心(てんてんしん)」とされています。

胡麻団子桃饅頭

 

また、この時期の和菓子の発展において、大きな役割を果たしたのは、公家や貴族ゆかりの有職文化です。上流階級の菓子として、色、形共の繊細で美しい菓子が作られるようになりました。

 

日本独自のお茶や茶菓子の文化がめざましく発展したのは、江戸時代になってからです。幕府が新しく開かれた江戸の町では、京の文化的な香り漂う上生菓子が人気を博し、京菓子の専門店が数多く生まれました。

 

茶の湯へのアンチテーゼとして上方で生まれた煎茶文化もまた、江戸の下級武士や商人に受け入れられ、発展を続けました。江戸後期の文化文政時代になると、一般の町人たちにも煎茶を飲む習慣が広まり、庶民向けのお茶請けである「雑菓子」が数多く生まれました。

雑菓子

 

ちなみに、雑菓子の中には、団子や饅頭のほか、かりんとうや甘納豆、おこし、せんべいなど、現在でも庶民のおやつとして親しまれているものが多く含まれています。

 

季節感を演出したお茶のおもてなしをしよう!

高温多湿の日本の夏を、涼しく過ごす工夫は、煎茶道にも存在する

日本には四季があり、私たち日本人は、四季の移り変わりを味わい、暮らしに取り入れる文化があります。

 

しかし、四季には良い面ばかりがあるわけではありません。高温多湿な夏は非常に不快な気候であり、その中で、いかにして暮らしに涼を取り入れるかは、日本人にとって古来より永遠のテーマとなってきました。

高温多湿で不快な日本の夏

 

特に日本の歴史的建築を見ると、平安時代の寝殿造から始まり、近世初期の書院造に至るまで、「風通しのよさ」が一貫したテーマとなっていることが見て取れます。冬の寒さをしのぐ方法は、火を利用すれば比較的容易ですが、夏の暑さ対策が本格的に解決したのは、現代になって、エアコンが登場してからです。

 

季節感の演出を重んじる煎茶道においても、夏の暑さを感じさせないしつらえやお作法が数多くあります。

 

まず、夏のお茶席では襖や障子を取り払い、御簾(みす)を垂らすなど涼しげな夏座敷に模様替えをします。また、「次の間煎」と言って、手前座は火を扱うため次の間に移し、お客様には御簾越しにお手前をご覧いただく方法が取り入れられます。

※御簾:すだれの敬語表現

御簾が垂らされた夏座敷

 

そして、夏の水指は平水指と言い、口が広く浅い器を使います。そうするとお客様からも水面を見ることができ、涼しげな印象を与えます。早朝に茶会を催す「朝茶」もまた、蒸し暑い日本の夏を涼しく過ごすための、煎茶道における工夫です。

平水指

 

季節やシーンに合ったお茶を選ぶ

ご家庭でも、お茶のおもてなしを通じて、夏を涼しく、そして冬は暖かく過ごすお手伝いができます。そのためには、お出しするお茶や茶器の選び方と、空間演出を工夫することが大切です。

 

最も高級な緑茶として知られるのは玉露ですが、いついかなるおもてなしにも玉露がふさわしい訳ではありません。人肌に冷ましたお湯で入れた玉露よりも、熱いお湯で入れた番茶をいただきたい季節もあります。

 

また、季節だけではなくTPOも重要です。喉の渇きを潤したい時と、お客様と語らいながら味わうのとでは、お茶の選び方は変わるはずです。

 

季節感ある器選びや部屋の装飾に心を配る

お茶碗や茶托などの茶器の選び方次第で、そのお茶が何倍も美味しく感じられることもあります。さらに、お部屋の壁やテーブルの上など、お茶をいただく際に目に入る部分に心を配ることも忘れてはなりません。

 

例えば、掛け軸を季節ごとに入れ替えるまでしなくても、その季節らしい絵や写真を額に入れて飾ってみるだけで、部屋のイメージを変えることができます。

額に入れた写真

 

テーブルの上には、あなたの好きなお花を飾ってみましょう。一輪で、あるいは何本かまとめて、時には短く切って水に浮かべるなど自由にアレンジを楽しんではいかがでしょうか。

テーブルフラワーテーブルフラワー

 

百貨店に出かけることがあれば、和食器売場や和菓子売場をのぞいてみましょう。テーブルセンターと器のコーディネートは大いに参考になりますし、和菓子売場では日本の暦に合わせてこまめに商品の入れ替えをしているので、店頭の和菓子を眺めるだけで、季節感を感じることができます。

 

お客様にお菓子をお出しする際には、ぜひ、日本の四季だけでなく、年中行事などを参考にしながら、菓子器の素材選びや盛り付け、飾り付けをしていただきたいと思います。