紅茶

カフェやホテルのティールームに行ったとき、メニューにずらっと並んだ紅茶の銘柄に怖気づいてしまったことはないでしょうか。または紅茶は好きなのに、格式高いイメージがあって中々馴染めない、なんていう悩みを持っている人もいるかもしれません。

 

そこで今回は、主な紅茶の種類と特徴、飲み方、ティータイムが楽しくなる基礎知識を一緒に見ていきましょう。きっと紅茶が今よりもずっと身近に感じるはずです。

 

主な紅茶の名前と特徴を覚えよう!

皆さんが普段よく耳にする紅茶の名前と言えば、ダージリンやセイロン、アッサムといったところでしょうか。もしかしたら、キーマンも入るかもしれませんね。これらの紅茶の名前と特徴を一致させておくと、ティータイムの紅茶選びが楽しいものになること間違い無しです。

 

まず、ダージリンの名前は、インド西ベンガル最北の高地に由来します。19世紀の後半に、中国福健省から緑茶の苗木などを持ち込み、紅茶としたのが始まりです。ヒマラヤの山岳地と気温の低さを利用して、年に3回風味の異なる紅茶を収穫することができます。

ダージリンの場所

 

ダージリンの中で、3月初旬から4月に収穫するのが、「ファーストフラッシュ(First Flush)」と呼ばれるダージリンの一番茶です。収穫量が少なく、高値取引の対象となります。

ダージリンファーストフラッシュの茶葉&水色

 

ファーストフラッシュの茶葉のグレードは、オレンジペコータイプで、銀色の芽(通称シルバーチップ)をたくさん含んだ紅茶です。緑茶のような色合いでありながら、マスカットやシャンパンのような香りを放ちます。爽やかな心地よい渋味のある味わいで、色も薄いため、ブラックティー(ストレートティー)で飲むのに適しています。

※茶葉のグレードについて詳しくは「紅茶のリーフグレード」を参照ください。

 

続いて5月から6月下旬に摘まれるダージリンを「セカンドフラッシュ(Second Flush)」と呼びます。初夏の紅茶と言われており、味、香り、色と紅茶の個性が揃ったフルボディタイプの紅茶です。(※味、香り、色が際立っている紅茶を「フルボディ」と表現します)

ダージリンセカンドフラッシュの茶葉&水色

 

セカンドフラッシュの独特の香りは、マスカットフレーバーと表現され、渋味も強いのが特徴です。紅茶の色は、オレンジに近い赤みを出します。一杯目をブラックティー(ストレートティー)で飲み、二杯目はミルクティーとして楽しむのがいいでしょう。

 

そして10月から11月にかけて、その年の最後に詰まれる秋摘みのダージリンを「オータムナル(Autumnal)」と呼びます。熟したフルーツの香りと青っぽい香りとを合わせ持ちます。コクのある強い渋味と深い赤色から、ミルクティーとして飲むのに適しています。

ダージリンオータムナルの茶葉&水色

 

ダージリンに続いて覚えておきたいのは、アッサムです。アッサムはインド北東部にある広大な平野で栽培されている紅茶です。ヒマラヤ山脈やブラマプトラという大きな川に囲まれています。

アッサムの場所

 

アッサムはインド紅茶の半数以上を占めます。CTC加工茶となることがほとんどで、インド国民のソウルドリンクである「チャイ」として楽しまれています。まろやかな深みのある渋味があり、オーソドックスな香りと深い赤色を出します。チャイの他にはミルクティーとして飲まれることもあり、ミルクとの相性がいい紅茶と言えるでしょう。

※CTC加工茶:茎や軸も含めて茶葉を押しつぶして引き裂き、丸めるという加工を施したもの。

※チャイ:鍋などで紅茶とスパイスを煮出し、そこに大量の砂糖とミルクを入れさらに煮出したもの。煮出して作った甘めのミルクティ。

アッサムCTCの茶葉&水色

 

インド紅茶の次は、中国紅茶のキーマンについて知識を深めましょう。キーマンは、ダージリン、スリランカのウバと並び、世界三大銘茶となっています。中国南東部の安徽省(あんきしょう)で、亜熱帯気候で栽培されています。年200日以上は雨が降り、平均気温は高いものの日中の温度差が激しいこの土地では、インドやスリランカとは違った特徴のある紅茶が完成します。

中国の安徽省の場所

 

マイルドでありつつ深みのある渋味です。はちみつのような甘い香りを放ち、紅茶の色は紫がかった深い赤色です。キーマンの特徴ある個性は、紅茶の本場イギリスでも愛されており、ブラックティー(ストレートティー)でもミルクティーでも楽しまれています。

キーマンの茶葉&水色

 

セイロンとは通称であり、栽培地は主に6つのエリアに分かれています。気候や日照量などによって紅茶の個性に大きな違いがあるのが面白いところです。セイロンは、1972年に共和制への移行によってスリランカに改名しましたが、今でも紅茶はセイロン茶と総称されることが多いです。

スリランカの紅茶の6産地

 

「ヌワラエリア(Nuwara Eliya)」は、そんなセイロン紅茶の一つです。爽やかで強めの渋味を持ちます。青草のような香りの中に、花や果実のような甘い香りを含ませています。淡いオレンジ系の赤色であり、ブラックティー(ストレートティー)に適しています。

ヌワラエリアの茶葉&水色

 

「ウダプセラワ(Uda Pussellawa)」は、ヌワラエリアに似てすっきりとした味わいの紅茶です。1月から2月は気候(モンスーン)の影響を受けて、ミント系の香りを含むこともあります。製茶によって異なりますが、透明度のあるオレンジ系の赤色をしており、ブラックティー(ストレートティー)としてもミルクティーとしても楽しまれています。

ウダプセラワの茶葉&水色

 

世界三大銘茶の一つである「ウバ(Uva)」は、馴染みのある人も多いのではないでしょうか。ベンガル湾に面した山岳地帯とモンスーンの影響を受け、ミント系の爽やかな香りとバラに似た甘い香りを持ちます。パンチの効いた強い渋味を持っているため、ミルクとの相性が良く、ミルクティーとして親しまれています。

ウバの茶葉&水色

 

スリランカ紅茶の代表として知られているのは、「ディンブラ(Dimbula)」です。味、香り、色と揃ったフルボディタイプの紅茶です。

ディンブラの茶葉&水色

 

1月から2月の気候(モンスーン)の影響を受けて、クオリティシーズンに紅茶の強い個性を打ち出します。花のような香りと新緑の香りを併せ持ちます。オレンジ系の深い赤みのある色は、ブラックティー(ストレートティー)としてもミルクティーとしても楽しまれています。

※クオリティシーズン:紅茶は1年に何回か収穫されますが、最も良質の茶葉が収穫される時期のこと。いわゆる、その紅茶の旬。

 

「キャンディ(Kandy)」は、セイロン紅茶発祥の地で生まれた紅茶であり、標高400~600メートルという低い土地で栽培されています。癖のない弱い味や香りであり、飲みやすさが最大の特徴です。赤系の高い色で、冷やしても色が変わりにくいため、アイスティーやバリエーションティーとして楽しまれています。

キャンディの茶葉&水色

 

セイロン紅茶として最後に覚えておきたいのが、「ルフナ(Ruhuna)」です。スリランカの産地としては最も標高の低い地域でありながら、南部気候の助けもあって、茶葉の成長が早く大きめの葉となるのが特徴です。

ルフナの茶葉&水色

 

南部気候で育ったルフナは酸化反応が良く進み、コクのある味わいでマイルドな渋味が特徴の紅茶です。砂糖を焦がしたようなスモーキーな香りを持ち、深い赤色を出すためミルクとの相性が抜群です。

 

紅茶と緑茶は同じ木から摘む

紅茶と緑茶の違いが、そもそも分からない(正確に言えない)という人も多いのではないでしょうか。それもそのはずです。緑茶と紅茶は同じ一種類の木から摘まれているのですから。

 

茶の木は、ツバキ科の植物で「カメリアシネンシス」という名前のものです。このカメリアシネンシスで飲用に利用されるものは2種類あり、葉の小さいものを中国種、葉の大きいものをアッサム種と呼んでいます。

中国種とアッサム種の茶葉

 

中国種は、日本でも緑茶用として栽培されているため、馴染みが深いかもしれません。生葉は指二本ほどの大きさです。一方でアッサム種は、「カメリアシネンシス・アッサミカ」と呼ばれており、葉は手の平ほどの大きさになります。

 

この2種の違いは、プチトマトと普通のトマトみたいなもので、味こそあまり違いはありませんが、使用方法、料理方法が異なってきます。一般的には中国種を緑茶、アッサム種を紅茶に使いますが、両方とも茶の木の葉には変わりないので、どちらの木からでも緑茶も紅茶も作ることができます。

 

カメリアシネンシスの生葉は緑色で、これをすぐに蒸したり炒ったりして熱を加えると、緑色が残ります。これを揉んで乾燥させたのが緑茶です。

 

一方で紅茶は、生葉を放置してしおれさせ、その段階で揉むことで繊維質を壊していきます。すると、葉汁が出て酸素と反応(酸化)します。すりおろしリンゴも時間がたつと茶色くなるのと同じ原理で、茶葉もまた緑から茶色へと変わっていきます。この酸化を低温で乾燥させて止めることで紅茶の完成です。

 

アッサム種で紅茶を作ると、カテキンが多く分泌されコクのある渋味の強い紅茶ができます。中国種で紅茶を作ると、ウーロン茶のような飲みやすい紅茶ができます。この紅茶は、ミルクや砂糖を入れなくてもストレートで味わえます。

 

逆に、アッサム種主体の地方では、緑茶ブームに乗り、アッサム種の緑茶を作ることが流行っています。中国種よりも少量で、深い味が出ることが人気なようです。

 

「ブラックティー(black tea)」を日本語にすると「紅茶」になるのはなぜ?

中国でも日本でも、紅茶は「紅茶(赤いお茶)」と呼ばれています。これは、茶葉の黒色ではなく、紅茶を入れた時の色に由来しているからです。

 

一方でヨーロッパでは、茶葉が緑色、入れた色も緑色のお茶はグリーンティーと呼ばれます。そして紅茶は、ヨーロッパの水(硬水)で入れると赤色よりも黒色に近い発色をするので、茶葉も入れた色も黒のためブラックティーと呼ばれます。

茶葉Aを硬水で抽出した紅茶茶葉Aを軟水(日本の水)で抽出した紅茶

 

ブラックティーには二つの意味があります。一つは砂糖の有無にかかわらず、ミルクを入れないで飲むことを指します。そしてもう一つは、紅茶の茶葉そのものを指す言葉で、中国紅茶でもインドやスリランカの紅茶でもブラックティーと称します。

 

前者のブラックティーは、日本では「ストレートティー」で通じますが、イギリスでは通じません。ストレートは英語では、ウイスキーなどを水で割らずにそのまま飲む飲み方を指すからです。紅茶に「ストレート」と使うことに、違和感があるのでしょう。

 

日本でブラックティーではなくストレートティーが定着しているのは、単にブラックティーという言葉が、若い女性や子供の興味を引きつけにくいと考えられたからでしょう。

 

ブラックティーと言うと、いかにも黒々とした苦いお茶を想像してしまい、実際の紅茶とは程遠くなってしまいます。そのため、そのままということを表現するために、「ストレート」と呼ぶようになったのでしょう。(「そのまま」と言っても、砂糖が入る場合もストレートティーです)

 

また、ミルクティーも日本でしか通じません。イギリスではティーウィズミルク(もしくは単にティー)です。ついでに、ロイヤルミルクティーは完全に和製英語です。王室で飲んでいるように、贅沢にミルクを使っている紅茶というイメージでそう呼ばれ出したのでしょう。

 

好みの紅茶を探すには、食事との相性を考える

すべての紅茶の産地、茶園、味、香り、色を網羅していくのは大変な労力です。さらに、その中から好きな逸品を見つけるのは、もっと大変でしょう。また、体調やシチュエーションによって、同じ味や香りが良いとも限りません。だからこそ、その都度飲みたい紅茶を選ぶようにしていくのが良いと思います。

 

では、どうやって飲みたい紅茶を選んでいけばいいのでしょうか?

 

基準となるのは、次の3パターンです。

・渋味が強い

・渋味が弱い

・フレーバーティー

 

紅茶はコーヒーやココアと違って、単体で楽しむものではなく、料理と一緒に楽しむことが多い飲み物です。そういった意味では日本酒やワインと似ています。

料理と紅茶

 

渋味が強い紅茶にするか、渋味の弱い紅茶にするかで悩んだ時には、一緒に楽しむ料理に合わせるといいでしょう。乳脂肪や脂分を多く含む食事(洋食、洋菓子など)には渋味の強い紅茶、脂分の少ない食事(和食、和菓子など)には渋味の弱い紅茶が良く合います。

 

紅茶の渋味の強さを見極める際には、産地情報がとても役に立ちます。強い順に、インド、中国、スリランカ、ケニアです。品種では、ダージリン、アッサム、キーマン、ウバ、ケニアCTCとなります。

 

一方でフレーバーティーは、ココアやコーヒーのように単体で楽しむ飲み物です。気分転換に紅茶が飲みたい、そんな時にチョイスするのがいいでしょう。ハーブ系で清々しく、フラワー系で元気に、食欲の無い時はフルーツ系で食欲増進など、香りの効果で選んでいくと良いでしょう。

 

紅茶には、ミルクとレモンを入れるべきか?

紅茶をお店で注文すると必ず「ミルクとレモン、どちらになさいますか」と聞かれるかと思います。多くの人は、だいたいどちらかを頼むのではないでしょうか。多くの人は、紅茶にはミルクかレモンを入れるものだと認識しているのかもしれません。

 

紅茶の歴史的起源は中国です。中国は緑茶文化のため、緑茶にしても紅茶にしても、ミルクもレモンも入れることなくブラックティー(ストレートティー)で飲むのが基本です。それがイギリスをはじめ世界に輸出されるようになり、飲み方にも変化が生まれます。

 

ミルクティーの起源は諸説あります。1655年にオランダ東インド会社の大使が、広東で中国皇帝の晩餐会に招かれた時に、紅茶にミルクを入れたのが始まりだという説や、1680年頃にフランスのサバリエール夫人が、ミルクを入れて飲み始めたのがきっかけだという説などです。

 

しかし、これらのことが直接的にミルクティーの普及につながったわけではありません。これまでブラックティー(ストレートティー)で飲む中国種の紅茶に変わり、インドのアッサム種が普及し、その強い個性に合わせてミルクを入れてマイルドにしたのが、庶民の飲み方として大流行したのです。

 

同じ頃、フランスの化学者ルイ・パスツールが開発したパスチャライゼーション(ワインの殺菌法)をミルクにも応用し、これまで衛生面で問題のあった生乳に変わり、低温殺菌ミルクが手に入るようになったのも大きな要因だと考えられます。今ではイギリスが広めたアフタヌーンティー文化でも、ミルクティーは主流の飲み方になっています。

 

一方でレモンティーは、20世紀にアメリカ産のレモンをアイスティーに入れて楽しむ、ティーレモネードが生まれたことが始まりです。戦後の日本でも、ホット紅茶にレモンを入れるなど、アメリカの香りを楽しむ紅茶として大流行しました。

 

イギリスからは邪道な飲み方としてレモンティーは位置付けられていますが、大衆には支持されるアメリカならではの紅茶として根付きました。

 

日本のレモンティーは美味しくない

前述の通り、歴史的に見るとブラックティー(ストレートティー)が元々の飲み方であり、マナーやルール的にはミルクやレモンを必ずしも入れる必要はなく、好みに応じて自由に楽しめば良いのです。

 

ただし、レモンティーは日本で飲むものが最も美味しくないです。というのは、日本の水がレモンティーと相性の悪い軟水だからです。

 

軟水で入れた紅茶は、色が薄く、香りと味を際立たせるため、紅茶の個性が強く出ます。好みはありますが、その紅茶の個性を楽しみたい人には好まれます。しかし、これをレモンティーにすると、苦味と渋味が倍増して不快なものになってしまいます。

 

これは、レモンの皮から抽出される苦味成分が、紅茶のカテキンと結合すると、苦味、渋味が増加するためです。もともとレモンティーは、レモンの香りと優しい酸味を楽しむものですが、軟水で抽出すると、そのような楽しみ方ができなくなってしまうのです。

 

日本で美味しいレモンティーを作るには、軟水ではなく硬水(エビアン etc.)で入れれば、香りと味が喧嘩することはありません。もしくは、軟水で作るなら、レモンの皮を予め取り果肉のみ入れ、レモンの皮は絞ってレモンオイルをカップの縁に付け、香りのみ楽しむようにします。

 

さらに、日本でレモンティーを作る場合、優しい渋味のスリランカのキャンディ、ケニアCTCなどをチョイスし、ティーポットに入れる茶葉の量も通常より少なくして抽出すると良いでしょう。レモンを入れる際の苦味、渋味の増加分を、茶葉の品種や茶葉量で調整して作るわけです。

 

また、レモンを皮ごとカップに入れる場合は、10秒以内に取り出しましょう。苦味成分が出過ぎる前に、レモンをカップから出すわけです。

 

黒い茶葉を抽出すると赤くなる理由

前述の通り、紅茶は製茶工程で茶葉を揉んで繊維質を壊すことで、酸化反応を起こさせます。すると、茶葉の色が緑色から茶色へと変化していきます。

 

紅茶を入れた時の色が赤いのは、酸化反応によりテアフラビン、テアルビジンという2種類のポリフェノールが生成されるためです。テアフラビンは明るいオレンジ色、テアルビジンは深い赤色をしており、それらが合わさって紅茶特有の美しい赤色を作り出しています。

 

茶木の種類によっても、入れた時の色は異なります。中国種はオレンジ系、アッサム種は赤系が強く出ます。

 

テアフラビンもテアルビジンも水中のミネラル(カルシウム、マグネシウム、鉄分 etc.)に反応するため、ミネラル分の多い硬水では色が濃くなり、少ない軟水では色が薄くなります。同じ茶葉であっても、ロンドンの水(硬水)と日本の水(軟水)では色が異なるのはこのためです。

茶葉Aを硬水で抽出した紅茶茶葉Aを軟水で抽出した紅茶

 

テアフラビンとテアルビジンを多く含んだ紅茶を白いティーカップに注ぐと、光の反射によりカップの縁に黄金の輪ができることがあります。これを「ゴールデンリング」と言います。

ゴールデンリング

 

ゴールデンリングは、どの紅茶にでもできるわけではありません。テアフラビン、テアルビジンを多く含んだ紅茶にできることが多く、良質な紅茶の指標となっています。

 

紅茶の保存容器が四角い理由

お茶の缶をイメージしたとき、日本茶は円上の筒型、紅茶は四角い箱型をイメージする人が多いのではないでしょうか。この四角い形はイギリス由来です。

紅茶の四角い缶

 

昔、紅茶をインドや中国から輸入する時、100ポンド(約45㎏)の茶葉が入る四角い木箱に入れていました。この箱をチェストと呼び、このチェストごとに取引をしていた名残から、今も紅茶の缶は四角いままなのです。

 

チェストをみれば、誰しも紅茶が入っていると分かるくらい、四角い箱と紅茶のイメージは結び付きました。このチェストの形だけで、紅茶の宣伝にもなりました。またこの形は輸送の際の無駄もなく、人力で運ぶのにちょうど良かったので長らく定型化されました。

 

20世紀半ばまでチェストでの輸送が続き、その後はアルミ箔を内側に貼ったパッケージとなりましたが、それでも重量の基準は100ポンドのままです。

紅茶の包装袋(パッケージ)

 

紅茶の缶は、使用しているうちにフタがゆるくなってしまうため、密閉容器に移した方が美味しく紅茶を楽しめます。特に日本は、梅雨~夏にかけて湿度が高くなるため、フタのゆるくなった缶に入れておくのは、良い状態とは言えません。

 

フレンチプレスの由来とフレンチプレスを使った美味しい紅茶の入れ方

筒状の耐熱ガラス容器で、金属メッシュのフィルターをピストンさせることで茶葉をこす器具があります。これを「フレンチプレス」と言います。

フレンチプレス

 

フレンチプレスというのは、「フランスで作られたプレス機」だからです。元々はコーヒーを入れるために考案された器具のため、「コーヒープレス」とも呼ばれています。これを紅茶を入れる器具として流用したのは日本です。

 

ガラス製のティーポットが普及していなかった時代に、陶器製のティーポットとは違い、茶葉の状態が見え、更に演出効果もあったため流行しました。

 

フレンチプレスを使って、紅茶を入れる際のポイントは以下の通りです。

①ジャンピングの条件「95度~98度のお湯を勢いよく注ぐ」ことで、ジャンピングを起こします。

※ジャンピングについて詳しくは「美味しい紅茶の入れ方!ポイントはたった1つ」を参照ください。

 

②ジャンピングが終わったら(茶葉が全て沈んだら)、ゆっくりピストンを下げます。

※ジャンピングが終わる前に下げると、茶葉の開きが甘く、紅茶が十分抽出されないのでNGです。

※ピストンを強くスピーディーに下げたり、何回も上下させたりするのはNGです。茶葉の繊維が破壊され、苦味や渋味が出過ぎて美味しくありません。

 

アフタヌーンティーのマナーと楽しみ方

アフタヌーンティーは、イギリスの食文化の代表です。正式な食事ではないにしても、世界中の有名ホテルが取り入れている紅茶と食べ物でのもてなし方です。

 

アフタヌーンティーが行われる時間は14時~17時くらいまでで、ホテルではティールームやラウンジで提供されることがほとんどのため、使われるテーブルは低くて小さいものがほとんどです。そこで活用されるのが、三段スタンド(ティースタンド)です。

アフタヌーンティーで使用する三段スタンド(ティースタンド)

 

スタンドには、サンドイッチ、スコーン、プチケーキが、それぞれの段に盛られて提供されます。塩味の強いものから順に「サンドイッチ→スコーン→プチケーキ」の順番で食べるのがマナーです。

※伝統的なイギリスのアフタヌーンティーは、「上段:サンドイッチ、中段:スコーン、下段:プチケーキ」の配置ですが、現在はホテルやお店(ティールーム)によって、配置は様々で、また料理も「サンドイッチ、スコーン、プチケーキ」とは別のものが盛られている場合もあります。

 

サンドイッチは、きゅうり、サーモン、チェダーチーズなど伝統的な内容のものがほとんどです。フィンガーサンドと呼ばれるサンドイッチは、女性が上品に食べることのできる大きさになっています。

フィンガーサンド

 

スコーンには、ジャムとクロテッドクリームが添えられてきます。スコーンを2つに割り、ジャムとクロテッドクリームを載せて食べるのが一般的な食べ方です。スコーンを温かいまま提供するために、最初は段にセットせず後から運ばれてくることもあります。

ジャムとクロテッドクリームを載せたスコーン

 

プチケーキは、タルト、チョコケーキ、ゼリー系などが提供されます。これらは指で持てる場合、ナイフやフォークを使わず、指でそのまま食べてもOKです。

プチケーキ

 

順番に食べた後、女性はもう一度サンドイッチに戻っても良く、男性が戻るのはNGとも言われています。女性がどのような順番で食べても気にしないのが、英国紳士のエチケットなのかもしれません。

 

アフタヌーンティーでオーダーする紅茶は、基本的に自由ですが、ミルクティーやホテルお勧めのブレンドティーをお勧めの飲み方でオーダーするのが、よりいっそう料理を美味しくいただけるでしょう。

 

アフタヌーンティーに招待した側が男性であれば、必ずティーメイクを申し出るのがマナーです。相手の好みに合わせ、紅茶の濃さやミルクや砂糖の加減を調整します。

 

招待客は、ホットウォータージャグ(お湯さし)で、入れてもらった紅茶を調整することも可能です。ただし、ミルクティーを勧められた場合に、ブラックティー(ストレートティー)を希望するなどは控えるのがマナーです。

 

紅茶のおかわりは自由ですが、ティーポットが空になった時、招待客が勝手に注文をするのはマナー違反です。ティーポットのおかわりを注文するかどうかを決めるのは、招待した側です。

 

というのも、招待した側は、ティータイムのスケジュールを考えて招待しているため、ティーポットを勝手におかわりすると、予定の時間通りに終了しない可能性が出てくるからです。

 

そもそもアフタヌーンティーとは、社交の場です。目的は、飲食ではなく、コミュニケーションであることに注意しなければなりません。人との会話や人に会うことを楽しむ時間と考えましょう。

 

アールグレイの正体

有名な紅茶と言えば、おそらくダージリン、アールグレイと答える人が多く、一般的に広く知られていると思います。ただし、この2つは根本的に違う紅茶です。ダージリンは茶葉そのままですが、アールグレイはベルガモットという柑橘類で香り付けしたフレーバーティーです。

ベルガモット

 

アールグレイができたきっかけは、19世紀半ば、その名の由来でもあるグレイ伯爵が、茶商のリチャード・トワイニングに注文したことと言われています。グレイ伯爵は、中国の土産にもらった紅茶を気に入り、同じもの作るよう注文しました。

※「グレイ伯爵」は、英語では「Earl Grey」となり、「アールグレイ=Earl Grey=グレイ伯爵」です。

 

この時の中国の紅茶は、松で燻製され、リュウガンという果実の香りに近かったと言われています。当時、リュウガンを知っているイギリス人がおらず、何の香りか分からなかったため、代替としてベルガモットが利用されました。

リュウガン

 

ベルガモットで香り付けした紅茶が、土産にもらった中国の紅茶と似ていたのかは不明ですが、グレイ伯爵はベルガモットのフレーバーティーも気に入ったようで「アールグレイ」と名付けられました。

 

茶商リチャード・トワイニングが所属していたトワイニング社(TWININGS)は、アールグレイを商標登録しませんでした。また、レシピの規定もないため、誰でも・どの会社でも作ることができ、どのような茶葉を使用して作っても、ベルガモットで香り付けしていればアールグレイになります。

 

つまり、勘違いされがちですが、アールグレイという茶葉は存在せず、ベルガモットで香り付けしたフレーバーティーの総称がアールグレイなのです。

 

従って、「アールグレイは美味しい」という日本語は間違いです。メーカーが違ったり、メーカーが同じでも使用する茶葉が違えば、味は変わるので、「○○社の製品ナンバー××のアールグレイが美味しい」というのが正しい表現になります。

 

知っておきたい紅茶の基本データ

世界一の紅茶の生産量を誇るのはインドであり、年間約120万トン、うち50%以上はアッサムを生産しています。続いてケニアの約50万トン、スリランカの約33万トンとなります。

【世界の紅茶の生産量(2014年)】
順位 生産国 生産量(千トン)
1 インド 1192
2 ケニア 499
3 スリランカ 335
4 インドネシア 132
5 中国 72

(出典:International Tea Committee)

 

インドは生産量こそ1位ですが、輸出量では3位です。最も輸出しているのはケニアであり、次にスリランカと続きます。

【世界の紅茶の輸出量(2014年)】
順位 輸出国 輸出量(千トン)
1 ケニア 494
2 スリランカ 314
3 インド 195
4 インドネシア 63
5 中国 38

(出典:International Tea Committee)

 

「インドの生産量と輸出量に差があるのはなぜか?」という類いの問題は、(紅茶に限らず)高校入試で良く見かけます。これは、「輸出量≒生産量-自国消費量」だからです。インドは国内でチャイとして年間約100万トン消費しており、最大でも残りの約20万トンしか輸出できません。

 

一方ケニアは、ほとんど輸出しているのが分かります。「ケニア人は甘い紅茶が好き」というのを、たまに耳にすることがありますが、自国消費量を勘案すると、(好きかもしれませんが)たくさん飲んでいるかというと疑問です。

 

生産傾向としては、現在ケニアはCTC茶の生産が高く、ティーバッグやバリエーションティーなど使用用途が多いことから、将来的に見ても輸出は増加すると考えられています。

※CTC茶:専用の機械で、茎や軸も含めて茶葉を押しつぶして引き裂き、丸めるという加工を施したもの。

 

一方で輸出2位のスリランカは、オーソドックス製法でリーフティー(茶葉そのままの姿のもの)の生産がほとんどです。生産量2位,3位、輸出量1位,2位と、どちらも紅茶の生産・輸出大国ですが、作られている中身は大きく異なるわけです。

CTC茶リーフティー

 

紅茶の一人あたりの年間消費量は、意外にも本場イギリスが1位ではなく、トルコが1位です。しかも2位イギリスの消費量をはるかに超えています。

【国民一人あたりの紅茶の消費量(2014年)】
順位 消費国 消費量(kg/年)
1 トルコ 3.18
2 イギリス 1.81
3 アイルランド 1.56
4 スリランカ 1.36
5 エジプト 1.22

(出典:International Tea Committee)

 

群を抜いてトルコ人は紅茶を飲んでいるわけですが、「この理由を答えよ」という問題も高校入試で良く見かけます。

 

この問題は、「国民一人あたりの紅茶消費量」という一見すると地理の問題と思いきや、歴史の問題で、偏りなく社会科全般を勉強していないと解けないので、いわゆる良い問題として難関私立などで良く出されます。

 

トルコと言えば、トルココーヒーが有名で長い歴史を持ち、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。しかし、現在はコーヒーではなく、紅茶が主に飲まれています。

 

トルコ(トルコ共和国)の建国は1923年で、その前はオスマン帝国という国名でした。第一次世界大戦でオスマン帝国は敗戦します。それにより、コーヒーの産地であったエリアを戦勝国に奪われてしまい、(自国でコーヒーを作れなくなったため)一変してコーヒーは高価な輸入品となります。

 

そこで、紅茶を飲むことが奨励され、コーヒーから紅茶に完全にシフトしていき、今では紅茶が国民的飲料となっています。誰もが知るくらい有名なトルココーヒーを飲んでいた分が、全て紅茶に変わったので、断トツで紅茶を飲んでいるわけです。

 

飲み方は「チャイ」が普及しています。ここで言うチャイは、インドのチャイとは違い、トルコ版チャイです。トルコ語で「お茶」のことを「チャイ」と言い、濃いめに抽出した紅茶に砂糖を入れたストレートティーを指します。

トルコチャイ

 

このように、データと文化や歴史などをセットで理解しておくと、何かと役に立ち、面白いと思います。