コーヒーと紅茶、手軽に美味しく飲めるのはどちらだと思いますか?ほとんどの人はコーヒーをイメージするのではないでしょうか。それは近年のコンビニのドリップやコーヒーチェーン店の拡大の影響が大きいかもしれません。しかし一番は、紅茶は入れ方が難しいという先入観が原因ではないでしょうか。
ちょっとしたコツさえつかめば、紅茶は誰でも簡単に美味しく入れることができます。そのために、覚えておくべき入れ方のポイントを一緒に押さえていきましょう。
料理人気分で紅茶を入れる
紅茶を飲む目的は、大きく分けて二つあります。一つ目の目的は、皆さんが普段の生活の中でも行なっているティーブレイクのお供として飲むためです。もう一つの目的は、紅茶のキャラクター(個性)を鑑定するためです。
二つの目的はそれぞれ異なるため、もちろん紅茶の入れ方も変わってきます。
前者は楽しく美味しく飲むことが目的のため、茶葉や湯の量に大まかな基準があるものの、各個人の自由な入れ方で基本的には問題はありません。
一方で後者には厳格な入れ方の基準があります。茶葉の量は3g、湯量は150ccと決められています。このように入れた紅茶はとても渋い味がします。しかし、この割合こそが紅茶を最も美味しく抽出するという誤った伝わり方をしているケースがあります。
紅茶が苦手な人の多くは、その渋みを嫌います。紅茶を嗜む人でも、茶葉の量にこだわる人は多くても、湯量にまで気を使う人はなかなかいません。
紅茶を本当に美味しく楽しむためには、十分な湯量が必要となります。それは、食事やティーブレイク中に、料理やお菓子を味わうのに十分な量です。
具体的には、一人分が350cc、ティーカップ8分目くらいを2杯半飲める量とされています。一杯目は、香りを楽しむために、3~4分蒸らしてからティーカップに注ぎます。二杯目は、本当の紅茶の色と味を楽しむために、お湯を注いでから10~20分頃に飲みます。
そして最後の三杯目は、ポットの最後の一滴まで余すことなくティーカップに注ぎます。きっとこの時の量は、カップの3分の1程度です。そこに自分の好みの濃さとなるよう、お湯を入れて調整するのです。
ちなみに、この時ポットから注がれた最後の一滴は、とても渋いものですが、愛しさを込めて「ベストドロップ」とポジティブに呼ばれています。
そもそも、紅茶はただの食材(飲材)でしかありません。食材をどう調理するかは、ある程度のセオリーはあれど、その時や場所に合わせて料理人のさじ加減・工夫によって変わります。
紅茶の入れ方も同じで、難しく考えることはありません。お米を水加減一つで好みの食感にアレンジするように、「この入れ方以外はNG」ではなく、紅茶もあなたの好みで楽しみましょう。まずはこれが基本原則です。何より美味しく、楽しめるのが一番です。
紅茶の個性は、味、香り、色で決まる
ワインの個性を表現する「フルボディ」という言葉がありますが、紅茶の個性を表現する時もしばしば登場します。味と香り、紅茶の色が際立っているという意味で使われます。
※入れた時の紅茶の色を、「色」でも良いですが、(特に専門家などは)「水色(すいしょく)」と言います。
紅茶の味わいは口に含んだ瞬間に広がる渋みと、その中でほのかに感じられる甘味や旨味、苦味の絶妙なバランスで評価されます。つまり紅茶にとって、渋みは欠かせない構成要素の一つなのです。この渋みの正体は、紅茶に含まれるカテキンによって生み出されます。タンニンとも言います。
※「タンニン」という化学物質は存在せず、タンニンとは植物の渋み成分の総称です。存在しない物質を成分とするのは、科学的には正しくないため、化学分野では「カテキン」を用いていますが、タンニンの方が一般認識が高い現状もあります。いずれにしても、紅茶含めお茶の渋み成分は、「カテキン=タンニン」で同じものを指します。
カテキンは単に渋みを感じさせるだけではなく、香味も同時に感じさせます。カテキンが少なすぎれば香りが物足りず、多過ぎれば渋みが強すぎる紅茶となります。どちらもバランスよく存在する紅茶こそがフルボディと呼ばれ、紅茶といえばこれ!と思わせる逸品となり得るのです。
紅茶の香りを分析していくと、人間の嗅覚では到底嗅ぎ分けられない300種類以上の成分があることが分かります。これらの香りは花や果物、森林の木々の香りに例えられます。
例えば個性の強いダージリンはマスカットやシャンパン、中国のキーマンは焦げた砂糖やはちみつなど甘くて香ばしいイメージのものを思わせます。また、スリランカのウバは季節の影響を受けて、時にはバラの香りに例えられることもあります。
紅茶の個性のうちで最も分かりやすいのが、紅茶の色です。ほとんどはオレンジ系の赤みがかった茶色になり、茶葉によって濃淡を変えています。淡いオレンジであったり、ルビー色であったりと表現は様々ですが、どれも思わず飲みたくなるような表現で表されることがとても多いです。
紅茶はコーヒーやその他の飲み物に比べて、個性が弱い飲み物です。だからこそ、その個性を自分の感性で表現していくと愛着を持つことができ、より一層紅茶を楽しむことができるはずです。
美味しい紅茶の入れ方!ポイントはたった1つ
紅茶の三大要素(味、香り、色)を最大限に引き出すために、紅茶大国であるイギリスでは、何100年もの間経験に基づいた「ゴールデンルール」という入れ方が存在し、守られてきました。
ところが、このゴールデンルールをもってしても、紅茶を美味しく入れられないことが多々あります。味や色が薄かったり、香りが弱かったりします。それを恐れて今度は茶葉の量を増やすと、渋みが強すぎて飲めないこともあります。
このような失敗をしないために、皆さんが守るべきは、イギリスのゴールデンルールではありません。もっと簡単で、すぐできる入れ方のポイントがあります。
その方法とは、「酸素を多く含んだ熱湯を茶葉に注ぐこと」です。
たった1つですが、これだけでOKです。これは2012年2月に、NHK・BSプレミアムの教養ドキュメンタリー番組「アインシュタインの眼」にて、検証されて導かれたルールなのです。
茶葉をティーポットに入れて、酸素を多く含んだ熱湯を注ぐことで、茶葉の表面に細かい酸素の泡がまとわりついていきます。この泡の浮力に助けられて、お湯の中で茶葉たちはどんどん浮き上がり、泡が消えては落ち、お湯の流れによってまた浮かび・・・という動きを繰り返します。
※ティーポット:紅茶を抽出するための茶器。球状に近い形が望ましい。球状は水流(対流)が発生しやすく、ジャンピングが起こりやすい。
いわゆる「ジャンピング」と呼ばれる現象です。少しでも紅茶の知識がある人にとっては、なじみのある言葉かもしれません。茶葉がジャンピングすると、ポットのお湯の中に勢いよくカテキンやカフェインが抽出され、風味や香り、色が広がっていきます。
NHKの番組では、JAMSTEC(海洋研究開発機構)の研究員・小栗一将氏が、茶葉をジャンピングさせるのにベストなお湯の条件を調べました。やかんやティーポットのお湯に、どのくらい酸素が含まれているのか、一目で分かる装置をくみ上げて検証しました。
その結果、90度を超えたお湯の中の酸素はぐんぐん減少し、99度を境に0になることが分かりました。
これは伝統的に良いとされていた「沸騰後数分間、沸かし続けたお湯で紅茶を入れる」というルールを科学的に否定しました。酸素が含まれていないお湯をいくら勢いよく注いでも、茶葉はジャンピングしないのです。
一方で、酸素がギリギリ含まれている95度から98度のお湯を注ぐと、茶葉にはびっしりと酸素の泡がまとわりつき、勢いよくジャンピングが起こります。また90度以下のお湯では、酸素量が十分でも茶葉を動かす水流エネルギーが足りず、十分なカテキンやカフェインが抽出されません。
つまり、私たちが美味しい紅茶を入れるためには、最適な温度である95度から98度の熱湯になったことを見極めなければなりません。温度計を用いなくても、慣れれば目視や音だけで見極める方法があります。
やかんに2リットル程度の水を入れて沸かした時、90度に達すると沸き上がりの音が変化するのを注意して聞いてみてください。「シュー」というこれまでの音から一転「ゴー」といった激しい音に変わります。
これは、90度までは細かい気泡が立ち上がっているだけなのに対して、温度が上がるにつれて大きく激しい気泡の立ち上がりになっていくからです。
音の変化をつかめたら、次は泡の変化を目視で感じてください。
・90度では、内側(やかん側の湯)に、細かいキリ状の泡ができ始めます。
・93度では、内側の泡が増え、真ん中あたりにも泡が立ち始めます。
・95度になると、全体的に泡が増え、表面は波打ちます。
・99度以上になると、ボコボコ泡立ち、火を弱めないと吹きこぼれる場合もあります。
引き上げる最も良いポイントは、93度から95度です。
紅茶を入れるのに最適な温度は、上記の通り95度から98度ですが、温度は数秒で上がるため、95度ちょうど、96度ちょうどというようなピンポイントを押さえるのは、ほぼ不可能です。そのため、引き上げポイントは93度から95度として練習するのがベターです。
しかし、それでも初めのうちは、93度から95度でとらえるのは、なかなか至難の業だと思います。もし逃してしまったら、95度から98度の間にとどめておけばOKです。いずれにしても、数秒程度の短い時間しかありませんが、何回か練習すれば音と目視で必ずとらえられるようになります。
紅茶の入れ方の最重要ポイント「ジャンピング」の要件
どんな紅茶であっても、ジャンピングさえ成功すれば、その紅茶の個性を引き出して美味しく飲むことができます。ジャンピングは、ティーポットの中で起こる現象のため、成功の条件さえ整えれば自動的に起こります。
ジャンピングが成功する条件
ジャンピングを成功させるには、まず汲みたての水が不可欠です。もしペットボトルの水を使う場合は、一度開封して少し水を出してから再びフタをして、空気を含ませるために10回以上振って、全体に空気を行きわたらせましょう。
一度に沸かす水の量にも注意が必要です。一人分(350cc)程度の紅茶を入れる時でも、最低1リットルの水を沸かしましょう。水の量が少ないと含有酸素量も減り、沸かしているうちに無酸素状態のお湯になってしまいます。
お湯を沸かす時は、強火で短時間で沸かします。93度から95度(or 93度から98度)の温度になったところで火を止めましょう。また、室温が低い場合は、ティーカップも事前に温めておきます。
お湯は茶葉に向けて勢いよく注ぎます。茶葉をたたきつけるように注ぐと、気泡が茶葉により多くまとわりついてジャンピングをが起こりやすくなります。
気泡が付いた茶葉は一度浮き上がり、水分を含むと沈み、また水流にのって浮かび上がります。これらを数分間繰り返したのち、茶葉がすべて沈んだ頃が紅茶の飲み時です。
ジャンピングが失敗する原因
熱湯を注いだのにも関わらず、すぐに茶葉が沈み切ってしまった、もしくは浮かび上がったまま沈まない場合が稀に存在します。ジャンピングが失敗する条件に当てはまってしまった場合です。基本的には、前述の成功条件に該当しない場合に失敗します。
沸かす水の量が少ないときや、汲みたての水ではないもの(数時間放置した水)、未開封ペットボトルの水や一度沸騰させたお湯を使うと、含有酸素量が少なく上手くジャンピングが起こりません。
また、お湯の温度が70度から80度と低いと、熱対流が弱いため茶葉が浮かんだままになる可能性が高くなり、ジャンピングが起こりにくくなります。やかんの注ぎ口が細くても、お湯の勢いが足りず、ジャンピングが起こりにくくなります。
ジャンピングが起こらなかった紅茶は、色や味が薄く、香りが弱くお湯の匂いがします。その場合は、一度ティースプーンなどでティーポットの中をかき回し、5分程度置いておくとよいでしょう。
そうすることで、ジャンピングまではいかずとも、似たような効果を得ることができます。要は、手動で「なんちゃってジャンピング」を発生させるわけです。
ジャンピングが起こった時も、起こらなかった時もその時の味をしっかり覚えておきましょう。今後の紅茶が、満足のいく出来かどうかの判断基準になるはずです。
紅茶は、入れて飲んでみて、初めて良し悪しが分かる
当たり前ですが、紅茶の良し悪しは、飲んでみないと分からないものです。しかしある程度は、茶葉の形状やパッケージの表示を見て判別することが可能です。一般的に、茶葉の形状が大きいと渋みが優しくなり、小さいと濃厚な味わいになります。
良く耳にする「オレンジペコー(OP)」は、中国では「橙黄白豪」、英語では「Orange pekoe」と表示されています。新芽がたくさん入っている良質茶です。現在市販されているOPタイプの多くはダージリンやキーマンです。
まず、オレンジペコーは、紅茶の種類ではなく、茶葉のグレードを表す言葉だということを覚えておくといいでしょう。従って、ウーロン茶や緑茶にもオレンジペコーは存在します。グレードと言うと、茶葉の質(良質度)と思われがちですが、「形状」による名称ですので、茶葉の良し悪しとは無関係です。
「ブロークンオレンジペコー(BOP)」は、オレンジペコーを細かく裁断した茶葉を指します。世界第二位の輸出国スリランカの特産物です。「ビーオーピー」は、スリランカ、セイロン紅茶の代名詞にもなっています。
「ファニングス(F)」は、BOPタイプよりも更に細かいもので、ティーバッグなど速く紅茶を抽出したい時に使用される茶葉です。
また、未来の紅茶とも呼ばれている「CTC(Crush Tear Curl)加工茶」というのもあり、これは茎や軸も含めて茶葉を押しつぶして引き裂き、丸めるという加工を施したものです。
CTC茶は、茶葉以外の部分も含んでいるため、渋みが少なく、飲みやすいという利点があり、インドのアッサム、ニルギリを中心に紅茶生産量の70%程度がCTC茶に移行しつつあります。
グレード | 概要 |
---|---|
FOP (フラワリー・オレンジ・ペコー) |
10~15mmの長さの茶葉で、新芽を多く含む。新芽の割合が多いほど上級とされる。 |
OP (オレンジ・ペコー) |
7~11mmの長さの茶葉で、細長くねじられている。ゆっくり抽出するのが良いとされている。 |
P (ペコー) |
5~7mmの長さの茶葉で、OPよりも硬い葉で、太く短くねじられている。OPより香り水色ともに濃い。 |
PS (ペコー・スーチョン) |
Pより硬く、太く短い茶葉。Pより香り水色ともに弱い。 |
S (スーチョン) |
PSより硬く、丸く大きい茶葉。くせのある独特の香りが特徴の中国の紅茶「正山小種」に多く使用される。 |
BPS (ブロークン・ペコー・スーチョン) |
PSを細かくカットしてふるいにかけた茶葉。 |
BP (ブロークン・ペコー) |
Pを細かくカットしてふるいにかけた茶葉。茶葉の大きさはBPSより小さい。 |
BOP (ブロークン・オレンジ・ペコー) |
OPを細かくカットした2~4mmの長さの茶葉で、新芽を多く含む。茶葉の大きさはBPより小さい。香り高く、水色も濃い。 |
BOPF (ブロークン・オレンジ・ペコー・ファニングス) |
BOPをふるいにかけた1~2mmの長さの茶葉。ブレンドティー、ティーバッグに使用される。 |
F (ファニングス) |
BOPをふるいにかけた時に落ちる小さな茶葉。 |
D (ダスト) |
1mm以下の最も小さい茶葉。ふるい分けの際に一番最後に残る茶葉。 |
CTC (シー・ティー・シー) |
特殊な機械で顆粒状に加工した茶葉。大きさは、粉くらいの細かいものから数ミリのものまで様々。 |
このように、缶などに入っている茶葉を直接目視できなくても、パッケージ表示で茶葉の形状は分かります。抽出時間など入れ方にもよりますが、基本的には小さい茶葉の方が味は出やすいため、小さい茶葉は渋みが強く、大きい茶葉は渋みが弱くなります。
しかし、茶葉の形状で分かるのはこのくらいで、やはり紅茶は目視だけでは判断できず、入れて飲んでみないと分からない部分の方が多いです。入れ方としては、紅茶鑑定のようにティースプーン一杯でも、その個性が分かるように濃く抽出するのも手ですが、普段の入れ方と同様にして、美味しく紅茶の個性を確かめるのがいいでしょう。
美味しいブラックティー(ストレートティー)の入れ方と個性の確かめ方
①前述ジャンピングの条件となるお湯(95度~98度)を用意します。ティーポットはお湯などで温めておきましょう。
②茶葉をティーポットに入れ、お湯を勢いよく注いでジャンピングを起こします。
※茶葉はティースプーンで「人数+1杯」、お湯は1人分350ccが目安。従って、1人分だと茶葉2杯、お湯350cc。
③茶葉が浮いてきたらティーポットのフタをして、BOPなら3分、OPなら5~6分を目安に蒸らします。
④ティーストレーナー(茶こし)でこしながら、紅茶をティーカップに注ぎます。
その後、一杯目で「味、香り」、一杯目から10分程度おいて二杯目で「色、渋み、香り」を確かめます。
このようにして、個性(味、渋み、香り、色)を把握したら、これがその紅茶の基本情報となります。別の紅茶を買う毎に同様に調べて、手帳やスマホなどにメモしておくと良いでしょう。
その紅茶で、ブラックティー(ストレートティー)、ミルクティー、アイスティー、スパイスやフルーツの組み合わせなど、いろんな飲み方をすることで、どの飲み方が良いのか分かり、すると「こういう個性の紅茶は、この飲み方が良い」と判断できるようになってきます。
むろん、好みもあり、入れ方などでも変わってきますが、紅茶を買う毎に個性を確かめることによって、茶葉の調理の仕方や相性の良い食べ物などを徐々にイメージできるようになってきます。
紅茶を入れる水に妥協は許されない
イギリスで飲む紅茶が美味しいという話を、一度は耳にしたことがあるかもしれません。特にイギリスのロンドンで飲む紅茶は、コーヒーのように色が濃く濃厚ですが、味や香りの個性が弱くとても飲みやすいものです。
ところが、ロンドンの茶葉を一度日本に持ち帰り、日本で抽出してみると不思議な現象に出会います。ロンドンで飲んだのと同じ茶葉で入れ方も全く同じでも、日本の水で抽出すると、色が透明で味や香りは個性の強い紅茶へと変貌するのです。
この変化の原因は、ロンドンと日本の水の水質の違いに起因します。ロンドンの水は硬水で、日本の水は軟水です。
硬度の高い水で紅茶を入れると、紅茶のカテキン成分と水のミネラル分が結合して、味や香りといった紅茶の個性を弱めてしまいます。しかしその結果、渋みが優しく、濃いけれど飲みやすい、(好みはありますが)美味しい紅茶が抽出できるのです。
一方で、軟水で紅茶を入れると、透明がかった綺麗な紅茶を抽出します。味も香りも、その紅茶の個性が際立つものになります。紅茶らしい紅茶を抽出するのには適しているかもしれませんが、万人にとって美味しい紅茶かと言われると難しいところです。
イギリスでは、ほとんどの人がミルクティーとして紅茶を楽しみます。そのため、色の濃い、さっぱりとした後味の紅茶は、ミルクを入れるとクリーム色になり、味はまろやかになり、よりいっそう飲みやすくなります。
※ミルクティーと言うのは日本だけで、イギリスでは「ティーウィズミルク(tea with milk)」と言います。ただし、ほとんどの英国人はミルクティーで飲むため、「tea」でミルクティーが出てきます。従って、ミルク無しにしたい時にだけ「ブラックティー(black tea)」もしくは「ティーウィズアウトミルク(tea without milk)」とオーダーすることになります。
また日本と違いイギリスでは、食事やアフタヌーンティー時に紅茶を嗜むことが多くあります。チーズやクリームと言った濃厚な味、フィッシュアンドチップスなどの脂分と共に飲む飲み物として、やはりイギリスの硬水で入れたさっぱりした紅茶は美味しく感じるでしょう。
紅茶を楽しむためには、水選びは妥協できません。かつては、その土地の水を使うのが定番でしたが、今は硬水も軟水もすぐ手に入る時代となりました。水の選び方のポイントは、以下の通りです。
・インドのダージリンやアッサム、スリランカのウバなど渋みの強いものは、硬水(エビアン etc.)で入れると渋みが和らぎ飲みやすくなります。アルカリイオン水も、硬水同様、渋みが和らぎ、色は濃く抽出されます。
・逆に個性の出にくい紅茶は、軟水(ボルヴィック、日本の水道水 etc.)で入れると個性(味や香り)を引き出すことができます。
味を調整できるのは紅茶だけの特権
どんなに高級なホテルであっても、お洒落なカフェであっても、紅茶は入れてもらった後に自分でお湯を足して濃さを調整することが許されています。アフタヌーンティーなどに行けば、必ずホットウォータージャグ(お湯さし)が用意されているのがその証拠です。
もともとホットウォータージャグは、OPタイプの茶葉を二番煎じで飲むために用いられていました。しかし近年、OPよりも細かいBOPタイプの茶葉が出回るようになってからは、最初に抽出したものを最後の一滴まで注いでから、お湯を注いで調整するスタイルへと変化していきました。
BOPタイプのように細かい茶葉の入ったポットにお湯を継ぎ足すと、ティーカップにまで茶葉が侵入してしまい、違和感の残る飲み心地となってしまうというのが大きな理由の一つです。また渋みも強く出てしまいます。
ティールームやホテルでは、ティーポットでまず紅茶を提供した後、しばらくしてからホットウォータージャグを提供するのが一般的です。サーブする側が、一杯目の紅茶を飲み終えて、二杯目の紅茶を飲む頃にポットの中の紅茶が濃くなっていることを熟知しているからです。また早めにお湯を持っていくと冷めてしまうという心遣いでもあります。
イギリスでは、ティータイムへの招待は、ディナータイムへの招待に匹敵するくらいの歓迎とされています。
紅茶はキッチンでお湯を注ぎ、ジャンピングさせたのちに客人に提供されます。しかしお湯を注ぐだけが、紅茶のもてなし方ではありません。招待した相手の好みに合わせて、紅茶の濃さ、砂糖、ミルクの配分などに細心の注意を払っていきます。少しでも美味しく、温かい紅茶を飲んでほしいという気持ちを忘れてはいけません。
最近ではリーフティーよりもティーバッグを用いて、紅茶を入れる機会が増えてきましたが、ティーバッグでも味を好みに調整するために、ホットウォータージャグの存在は欠かせません。
紅茶が先か、ミルクが先か
ミルクティーにおいて、紅茶を先に注ぐか、ミルクを先に注ぐかは、世の紅茶愛好家たちに、既に一世紀以上もかけて論争され続けてきた議題です。イギリスの有名な作家ジョージ・オーウェルが、『一杯のおいしい紅茶』で、「紅茶が先、ミルクは後」と主張しているくらいです。
ところが、2003年6月24日に、この論争に終止符が打たれました。
英国王立化学協会(Royal Society of Chemistry)が、『How to make a Perfect Cup of Tea(一杯の完璧な紅茶の入れ方)』という題名でニュースリリースを発表しました。1980年にエリザベス女王からロイヤルの称号を与えられた化学協会のこの発表は、注目を集めました。
化学協会に所属していたラフバラー大学のアンドリュー・スティープリー博士は、「ミルク・イン・ファースト(ミルクが先)」という結論を検証の結果説明しました。
まず紅茶に注ぐミルクは、すでに熱変性したたんぱく質を含むUHT(超高温殺菌)牛乳ではなく、低温殺菌牛乳にしないと味を悪くする可能性があることを指摘しました。続いて、牛乳たんぱくの変性は75度になると生じることから、ミルクは紅茶よりも先に注ぐべきだと主張しました。
熱い紅茶に対してミルク注がれると、上記の熱変性を起こす可能性はありますが、冷たいミルクに熱い紅茶をゆっくり注いだ場合は、ミルクの温度が急上昇することはなく、熱変性が起こる可能性は下がります。また、一度紅茶とミルクが混ざってしまえば、その後温度が上昇することもありません。
イギリス人は寒い冬でもミルクは温めません。ミルクパン(鍋)で加熱したミルクは、75度以上になると、硫化水素を発生させます。硫化水素は異臭を放ち、紅茶とはマッチしないからです。
イギリスならではの紅茶の格言
紅茶にまつわる格言の一つに「ポットとカップは温めておくこと」というものがあります。前述の通り、紅茶を入れる最適なお湯の温度は95度から98度のため、ティーポットを温めておくことは不思議に思わないかもしれません。
しかし、なぜティーカップまで温める必要があるのでしょうか?ブラックティー(ストレートティー)で飲む場合、一杯目はすでに70度近い温度で提供されるため、さらにカップまで温めてしまうと、唇や舌をやけどする危険性があります。また、熱すぎると、香りや味を楽しむ余裕がありません。
おそらくイギリス人のこの格言は、ブラックティーの場合ではなく、彼らが好むミルクティーを楽しむ場合のことを言っているのでしょう。(前述の通り、イギリスではデフォルトがミルクティーです)
冷たいミルクを先にカップに注ぎ、そのあと紅茶を注いでも、室温が寒い時などは飲み頃を通り越してぬるくなってしまうことが多々あります。そのような失敗を避け、更にミルクの味を落とさずにミルクティーを楽しむためには、カップを温め少しでも紅茶全体の温度を下げないようにする工夫が必要なのです。
また少しでも温度を下げないように、紅茶はカップの9分目まで注ぐのがいいとされています。しかし、そのようにたっぷりと注がれた紅茶をこぼさずに飲むのは、たやすいことではありません。だからこそ、ティーカップとソーサーを持ち上げて飲むといった、こぼれるのを前提とした飲み方が定着したのです。
紅茶はどうしてもマナーが厳しいイメージがあるかもしれません。しかし、一番大事なのは、家族団らんで子供から大人まで楽しく、美味しく、飲むことにあります。
そのために生まれたのが、今でも残る紅茶のマナーなのですから、ソーサーは持ち上げないといけないとか、絶対○○でないとNGというマナーはありません。目的と手段が逆にならないよう注意が必要です。
美味しいミルクティーの入れ方
文中で簡単に触れてはいますが、ミルクティーの入れ方をまとめておきます。
①ブラックティー(ストレートティー)で飲む時よりも、茶葉の量を少し多くして、蒸らし時間も少し長くして、ブラックティーを作ります。ティーカップはお湯などで温めておきます。
②ティーカップに、常温の低温殺菌牛乳を20~30ml注ぎます。
③ティーストレーナー(茶こし)でこしながら、ミルクの上から紅茶を注ぎます。ティーカップの9分目ぐらいまで注ぎましょう。
理由含め詳しく前述した通り、ポイントは「常温のミルクを紅茶より先に注ぐこと」です。
美味しいアイスティーの入れ方
1904年のアメリカで開かれた万国博覧会まで、紅茶はホットで嗜むものであり、氷を入れるのは邪道とされてきました。しかし夏の万国博覧会で、ホットの紅茶を試飲してくれる人がいなかったため、リチャード・ブレチンデン(イギリスの紅茶商)が氷を入れて勧めたことをきっかけにアイスティーが誕生しました。
紅茶は世界120ヵ国以上で飲まれていますが、そのうちの約80%はホットティーです。インドのチャイ、イギリスのミルクティー、ロシアのロシアンティーなどがその代表です。
気候的にはアイスティーの方が合ってそうな国もありますが、日本のように“手軽”に“安価”に氷が手に入るという状況が普及しているとは言いがたいのが現状です。日本のように、浄水も殺菌もせず水道水を製氷皿に直接入れて作った氷が使用できる国は、そんなに多くありません。
手軽に安価に製氷を手に入れられる日本にとって、アイスティーの文化は適していました。そのアイスティーも今やペットボトルが主流となり、日本の紅茶消費量のトップに躍り出ました。一方でペットボトルの紅茶は、いつでも同じ味のため、自分好みの調整ができず面白味に欠ける面もあります。
そこで、誰でも簡単にできるアイスティーの入れ方をご紹介します。
アイスティーには、渋みが少なく、色の美しく出る茶葉を選ぶのがベターです。スリランカのキャンディーか、ディンブラがいいでしょう。
茶葉とお湯の分量比率は、ブラックティー(ストレートティー)の時と同じで作りますが、蒸らし時間を長めに10分程度取ります。言うまでもなく、ジャンピングは必須です。
ティーストレーナー(茶こし)で、紅茶をこしながら耐熱容器に移し替え、氷を両手でひとすくいくらい入れてかき混ぜます。その後冷蔵庫ではなく、常温で置いておくのが美味しくいただくコツです。冷蔵庫に入れると、カテキンとカフェインが結合して沈殿し、白く濁ります(これを「クリームダウン」と言います)。
常温でも10時間程度は美味しくいただけます。暑い夏やアイスティーが好きな方は、ぜひ試してみてください。