緑茶は、私たち日本人にとって最も馴染み深い飲み物と言っても過言ではありません。中国から伝来したと言われる緑茶ですが、各地の民衆の間ではそれ以前から、山に自生していた茶を様々な方法で加工して飲むことが、盛んに行われていました。
また、身体の不調を和らげたりするなど民間薬として重宝されてきた歴史もあります。そしてこれまでの研究により、緑茶の持つ効能は科学的にも証明されつつあります。長らく実践されてきた緑茶を使った健康法で、今日から取り入れてみたくなるものを、いくつか見ていきましょう。
お茶は世界を旅するように伝わった
お茶が辿ったルートを知るヒントは呼び名にあり
インド・デリーからイギリス・ロンドンを目指し、陸路でユーラシア大陸を縦断する旅行エッセイ『深夜特急(沢木耕太郎著)』には、緑茶や紅茶など、各地で親しまれる茶がたびたび登場します。
茶は元々中国が原産で、それが世界中に伝播するうちに、様々な加工法が生まれ、その結果、緑茶、ウーロン茶、紅茶などに種類が枝分かれしました。
お茶は、まずはアラブの商人達がシルクロード伝いにモンゴルやチベットを通り、インドを経て中近東へ伝え、その後の大航海時代になると、海路でヨーロッパ各地へと伝わりました。
つまり、前述の『深夜特急』で、旅の途中で出会った様々なお茶は、中国から陸路で伝わったお茶の変遷を辿ることと同じと言えるでしょう。
現在、世界のあらゆる地域で日常的に飲まれているお茶ですが、ルーツである中国からどのルートで伝えられたかは、その呼び名(発音)を見ると一目瞭然です。お茶は、中国広東語でも「茶」と書き、発音はCHA(チャ)です。
シルクロード沿いの地域での発音を調べてみると、ヒンディー語CHAYA(チャーヤ)、ペルシャ語CHA(チャ)、アラビア語、ロシア語CHAI(チャイ)、トルコ語CHAY(チャイ)と、いずれも広東語の発音CHA(チャ)を残したまま伝播していることがわかります。
また、地理的に離れているポルトガルでは、お茶のことをchá(シャ)と発音しますが、これは、お茶が伝わった当時、ポルトガルは、広東省マカオで、当時の中国・明と交易していたため、広東語の発音CHA(チャ)が取り入れられたという説が伝えられています。
ヨーロッパ航海史において覇権争いと共にあったお茶
ヨーロッパ人がお茶と初めて出会ったのは、大航海時代に入る16世紀のことでした。当時、経済発展が著しかった中国・明を始め、アジアとの交易を独占していたポルトガルがまず中国茶を輸入し、これによって莫大な利益を上げたと言われています。
やがて17世紀になると、アジア交易の覇権はオランダの手に渡り、東インド会社を通じて、ヨーロッパの国々に中国茶を伝えましたが、オランダには1630年代から喫茶の習慣が広がっていた一方で、現在紅茶文化が根付くイギリスには、長らく喫茶文化が定着しないままでした。
ところが、1662年にポルトガルの王女がイギリス王室に嫁いだ際、中国茶や茶器、また当時貴重品だった砂糖をたっぷり入れた飲み方をイギリスに持ち込んだところ、これがイギリス貴族の間に大流行しました。
その後18世紀になると、イギリスの東インド会社が中国茶の輸入を独占し、莫大な利益を得るようになり、大英帝国繁栄の礎となったとも言われています。
こうして、お茶はイギリスを通してヨーロッパ各国へと流通網を広げ、人々の暮らしに定着していきました。現在イギリスが「紅茶大国」として知られる発端は、ここにあります。
陸路で伝わった茶の呼び名(発音)が、その出発点であった広東省での発音CHA(チャ)の影響を受けたように、海路でお茶が伝えられた土地での呼び名(発音)も、出発地での発音がもとになっています。
イギリスが中国から茶葉の直輸入を始めた時、アモイなど福建省の港から出荷していたため、福建語での「茶」の発音TE(テ)が、その航路に沿って、マレーシアTHE(テー)、スリランカTHEY(テーイ)、南インドTEY(テイ)を経てヨーロッパに広がりました。
そのため、オランダ語THEE(テイ)、ドイツ語TEE(ティー)、英語TEA(ティー)、フランス語thé(ティ)など、ポルトガルを除くヨーロッパの主要な地域では、お茶の表記がTで始まっています。
戦争のきっかけにまでなった紅茶
世界各国に伝えられた中国茶は、またたく間に市民生活に欠かせない存在になりました。その間、紅茶は欧米の社会や歴史のうねりの中心にありました。
例えば19世紀には、摘みたての新茶をどれだけ早くイギリスに運ぶことができるかという「ティー・クリッパー・レース」が繰り広げられるようになりました。クリッパーとは帆船のことで、紅茶を早く運搬するための高速船が競って開発されました。
また、イギリスの植民地であったアメリカは、紅茶の不平等な輸入政策に反旗を掲げ、ボストン港に停泊していたイギリス東インド会社の積荷である紅茶を海に投棄しましたが(「ボストン茶会事件」という)、これがアメリカ独立戦争のきっかけになりました。
緑茶は健康な身体をつくる!植物性食品の効能に関心が集まる
アメリカで緑茶の持つ「がん予防効果」が注目され始める
日本よりも早く、がん患者の増加が問題となっていたアメリカでは、1980年代から食生活と健康との関係が研究されてきました。
そして米国立がん研究所は1990年に、野菜や果物など植物性食品の中に、がん予防に効果がある物質が含まれるという仮説を立て、それを明らかにする研究プロジェクト「デザイナーフーズ計画」を発足しました。
この計画では、がんの予防に効果が高いと考えられる植物性食品を40種類ほどピックアップし、効果が高い順にピラミッド状の表にまとめました。これを「デザイナーフーズ・ピラミッド」と言い、これらの食品を積極的に摂取し、がんになりにくい体質づくりにつなげることを推奨しました。
緑茶はその中でも上位にランクインしていますが、日常的に緑茶を飲む習慣がないアメリカでは異例とも言える注目度です。緑茶含めピラミッドに配置されている食品は、ウイルスや細菌に強い免疫力の高い身体づくりに役立つものです。
健康のために野菜や果物を意識的に摂取することを推奨
デザイナーフーズ計画のスローガンは「5 A DAY(ファイブ・ア・デイ)」です。これは、デザイナーフーズ・ピラミッドにある野菜や果物を1日に5種類、決められた分量食べることで、がんや生活習慣病を寄せつけない健康な身体を作っていこうというものです。
緑茶やジュースなど飲み物ならコップ1杯、サラダや加熱調理された野菜であればおよそ1/2カップ程度を摂ればよく、無理なく続けられるようになっています。
残念ながら、国を挙げての「デザイナーフーズ計画」は中断されてしまいましたが、この研究はアメリカ人の食生活に対する意識を変えるきっかけになりました。また、アメリカを始め日本でも高機能食品の研究は現在も活発に行われています。
緑茶の持つ健康効果は“第7の栄養素”の働きによるもの
茶カテキンは、病気予防や老化防止効果が期待されるファイトケミカルの一種
最近研究が進んでいる栄養素に「ファイトケミカル(植物栄養素)」があります。
ファイトケミカルは、従来の5大栄養素(たんぱく質、炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラル)と食物繊維の次に注目を集める「第7の栄養素」で、野菜や果物、豆類、海藻などの植物性食品に含まれており、健康の維持・改善への効能が期待されています。
その中でもよく知られているものとして、緑茶に豊富に含まれている「ポリフェノール(茶カテキン)」があります。緑茶の他にも赤ワインやなす、ぶどうにも多く含まれているものですが、様々な病気や老化の原因とされる活性酸素の働きを抑える「抗酸化作用」があります。
現在発見されているファイトケミカルは約1500種類とも言われており、様々な植物性食品に多種多様なファイトケミカルが含まれています。今後の研究の進展で、「食と健康」の相関関係はさらに明らかになり、より健康的な生活を送るヒントが見つかることが期待されています。
ファイトケミカルの抗酸化作用で活性酸素から身体を守る
体内に増えすぎると、老化やがんなどの生活習慣病を引き起こすと言われている物質が活性酸素です。
活性酸素は毎日呼吸する中でも少しずつ蓄積されていきますが、それに加えて紫外線や飲酒・喫煙、大気汚染など環境によるストレスも、活性酸素が過剰に発生する原因になります。
人間の身体には元々、活性酸素の量をコントロールし、活性酸素により傷ついた細胞を修復する酵素が存在しますが、生活環境から大きなストレスを受けると、その働きが弱くなってしまう性質があります。
ですが、食事を通してファイトケミカルを摂取することで、抗酸化酵素の働きを補うことができます。
ファイトケミカルは多種多様ですが、代表的なものを分類すると以下のようになります。そして緑茶に多く含まれるカテキン(ポリフェノール)も、先ほど述べた通りファイトケミカルの一種です。いずれも抗酸化作用がありますので、積極的に毎日の食事に取り入れたいものです。
●ポリフェノール系:強い抗酸化作用、抗がん作用、殺菌作用
アントシアニン(ブルーベリー、赤ワイン)、カテキン(緑茶、ワイン)、イソフラボン(大豆)など
●サポニン:脂質やコレステロールを取り除く
サポニン(大豆、高麗人参)※大豆の種類により働きが異なります
●イオウ化合物:血行や血流を改善、食中毒の予防にも効果
スルフォラファン(ブロッコリー、キャベツ)、システィンスルホキシド(タマネギ、ニンニク、キャベツ)
●カロテノイド類:美肌効果、目の健康維持
β-カロテン(にんじん、カボチャ)、リコペン(トマト、柿)、ルテイン(ホウレンソウ、ケール)、β-クリプトキサンチン(オレンジ、みかん)
●テルペン類:生活習慣病予防、一部の香りに抗うつ効果
リモネン(レモンなど柑橘類の果実)、メントール(ハッカ)
野菜や果物多めの食事に緑茶パワーをプラス
緑茶には茶カテキンの他にも、摂取すると体内でビタミンAに変わるβ-カロテンや、ビタミンC、ビタミンEといった抗酸化作用のある成分が多く含まれています。
ですので、ファイトケミカルを含む野菜や果物などを食べる際には、飲み物を緑茶に変えるだけで相乗効果が期待できます。
また、緑茶を飲むだけではなく、摂取の仕方をひと工夫すると、より多くの栄養成分を体内に取り込むことができます。
それは、緑茶の茶葉を丸ごといただく方法です。例えば、すり鉢などで細かくした茶葉に、乾燥わかめやちりめんじゃこを加え、梅昆布茶少々で味付けした「緑茶ふりかけ」はいかがですか?
すりつぶした茶葉をハンバーグやつくねのたねに混ぜ込めば、苦味を感じないのでお子様でも美味しく食べられます。また、パウンドケーキやクッキーの生地に練り込むと、緑色がきれいな仕上がりになります。
もちろん、茶葉を石臼で細かい粉状にしたものをお湯で溶いて飲むお抹茶でも良いでしょう。
このように茶葉ごといただくことは、最近では「食茶」と呼ばれて注目を集めています。お湯で入れた緑茶には溶出しないビタミンEをはじめとした脂溶性ビタミン成分をすべて摂取できるだけでなく、食物繊維を摂れる点も食茶の大きなメリットです。
民間薬として人々に重宝されてきた緑茶
抹茶を二日酔いの将軍に献上した栄西
古代中国では、お茶は解毒作用のある薬として利用されてきました。日本においても、飲み物としての煎茶が庶民にまで広まる以前は、番茶が薬草の一種として様々な民間療法に用いられており、そのうち現代にも伝わるものが数多くあります。
日本に喫茶の文化を伝えたのは、鎌倉時代初期に臨済宗を開いた禅僧・栄西と言われています。栄西はその著書『喫茶養生記』の中で、良薬としての茶の効能について説いています。
また栄西は、深酒の癖があった三代将軍・源実朝が、二日酔いの頭痛で苦しんでいた際に、抹茶を献上したところ、その効果は絶大であったと歴史書『吾妻鏡』にも記されています。
ところで、緑茶の薬効を説いた張本人である栄西禅師は74歳まで長生きしました。これは当時の平均寿命の3倍近くになり、驚異的な長寿です。このことも、緑茶は健康に良いという栄西自身の言葉を裏付けることとなり、人々の緑茶に対する絶大な信頼へとつながりました。
茶カテキンの抗酸化作用は、アンチエイジングや生活習慣病予防の救世主
「緑茶は健康・長寿に効果のある飲み物である」という栄西の言葉は、現代になって、科学的にも証明されてきました。
老化の原因物質については、現在も活発な研究が行われていますが、人間の体内で活性酸素が過剰に作り出されると、たんぱく質や糖質、脂質と結びついて、いわゆる「体のサビ」となり細胞にダメージを与えます。
酸化は老化だけでなく様々な生活習慣病を引き起こすと言われていますが、緑茶に含まれるカテキンの抗酸化作用が効くことが、最近の研究でわかってきました。
また、抗酸化作用のある食品はたくさんありますが、茶カテキンの持つ抗酸化力は圧倒的に強いということも判明しています。
美容やアンチエイジングにアンテナを張っている方であれば、抗酸化作用の代表選手はビタミンC、ビタミンEであるというのはご存じかと思います。しかし、茶カテキンの一種「エピガロカテキンガレート」の抗酸化力は、ビタミンCの約80倍、ビタミンEの約20倍にもなります。
栄西を始めとした、名だたる茶人には長寿が多いと言われますが、緑茶に含まれる成分が科学的に解明されてみると、それもごもっともと思わされます。
二日酔いには冷ました塩番茶が効果あり
古来より日本人が実践してきた、緑茶を利用した健康法には様々なものがありますが、二日酔いの辛さをスッキリ解消させると言われるのが「塩番茶」です。番茶をいつも通りに入れたら、粗塩をひとつまみ、レモン汁少々を加えてかき混ぜて作ります。
二日酔いの原因であるアセトアルデヒドなどの毒素の排出には、水分補給が必要ですが、二日酔いの時には胃が荒れやすくなっているため、少し塩分が含まれた飲み物の方が胃に優しいと言われています。
また、番茶に含まれるカテキンは吐き気を抑える効果もあります。熱い番茶は胃に刺激を与えるので、少し冷ましてから飲みましょう。
なお、冷ました塩番茶で鼻うがいをすると、鼻づまりがスッキリする効果もあります。鼻風邪を引いた時や、春の花粉症シーズンにお試しください。
風邪の予防には煎茶うがいが効果大
冷ました煎茶を使ったうがいは、風邪の予防に効果があります。もちろん普通の水でうがいをするだけでも風邪予防になりますが、煎茶には緑茶の中でもカテキンが多く含まれているため、喉の殺菌効果が高くおすすめです。
また、既に風邪を引いてしまった場合でも、喉の痛みを和らげるなど、症状の緩和に役立ちます。
うがいに使う煎茶は、いつも通りに入れた煎茶を冷ましたものを用意します。
うがいは、外出から戻ったらすぐ行う方が良いとされているので、なかなか冷めない場合は、少しであれば水で薄めて利用しても問題ありません。薄めすぎるとカテキン効果が弱くなるため、できるだけ薄めず利用した方がベターです。
うがいをする時は、首の角度を左右に変えながら行うと、喉の左右までしっかり洗うことができます。また、低い声を出しながらうがいをすると、喉が開いて奥まで洗え、煎茶の成分が届くため、より高い効果が期待できます。
外から帰った時だけでなく、喉に違和感を感じたらその都度、煎茶うがいを行い、風邪を寄せ付けない身体作りにつなげましょう。
疲労回復にはクエン酸との相乗効果が期待できる梅干番茶
発熱や風邪、お腹を壊した時、また疲れがたまった時にお勧めなのが、梅干し番茶です。梅干しの酸味の元であるクエン酸は、疲労回復に役立つだけでなく、殺菌作用もあります。
番茶に含まれるカテキンも殺菌効果がありますが、梅干しと同時に摂取することでさらなる相乗効果をもたらします。
ご家庭にある梅干し1〜2個を、種を除いて包丁でよくたたいてからお茶碗に入れ、いつも通りに入れた番茶を注いでかき混ぜれば完成です。お好みで、煎茶に変えても良いでしょう。
酸味が強いのが苦手なら、ごく少量のはちみつや砂糖を加えるとまろやかになります。
また、マクロビオティックでは、身体を温め新陳代謝を促進する飲み物として、梅肉に醤油を少し混ぜ、生姜汁と番茶を加えた「梅醤番茶」が有名です。好みに合わせて、お試しいただければと思います。
風邪気味の時には、血行を促進して身体を温める生姜番茶
風邪のひき始めや冬の寒い日に、生姜湯を飲むという方は多いのではないでしょうか。生姜の辛味成分には、血行を促進し、身体を芯から温める効果があるので、昔から重宝されてきました。
生姜の辛味が苦手な方には、生姜湯ではなく、番茶とブレンドした「生姜番茶」をお勧めします。
いつも通りに入れた番茶に、生姜の絞り汁を垂らし、はちみつや砂糖で甘味をプラスすれば出来上がりです。飲みやすくなるだけでなく、生姜の効能と番茶に含まれる健康に良い成分との相乗効果も得られ、一石二鳥の健康ドリンクです。
消化不良による胃もたれには大根番茶
食べすぎ、飲みすぎなどで胃もたれを感じたら、胃薬に頼る前に、大さじ1(約15g)ほどの大根おろしを、熱湯で入れた番茶に加えた「大根番茶」を試してみましょう。
大根には、消化酵素であるジアスターゼが豊富に含まれており、消化を助け、腸の働きを整える働きがあるため、胃もたれや胸やけが解消され、スッキリします。
また、大根おろしには食物繊維も含まれています。大根番茶を飲むことで、便秘の解消と、便秘に伴う肌荒れにも効果が期待できます。番茶に含まれるカテキンの殺菌作用とも相まって、喉の風邪の不快感などにも効果があります。
運動前に煎茶を一杯飲むと、脂肪燃焼効果が高まる
ダイエットのために運動を始める方は多いと思います。無理なく続けられるようにと、激しい筋トレではなくジョギングを選ぶものの、早々に挫折する人もまた多いのが現実です。
ジョギングは、目に見える効果が表れるまでに時間がかかるため、そのうちモチベーションが下がってしまい、習慣化に至らないのがその理由として挙げられています。
ジョギングやエアロビクス、エアロバイクといった比較的ゆったりした運動は有酸素運動と呼ばれ、短距離走や筋トレなど、激しい無酸素運動とは区別して考えられています。
脂肪燃焼に効果があり、ダイエットに適しているのは有酸素運動の方ですが、その効果は運動を始めて20〜30分ほど経ってから表れるという特徴があります。
有酸素運動をコツコツと長時間続けていくのは根気が要りますが、そのダイエット効果をアップさせる方法があります。それは、運動の30分ほど前に一杯の煎茶を飲むことです。煎茶に多く含まれるカフェインには、脂肪の代謝を促進する働きがあります。
通常であれば、運動する際には、グリコーゲンとして体内に蓄えられた炭水化物が先にエネルギーとして使われるのですが、カフェインを摂取するとその順番が変わり、グリコーゲンの燃焼を押さえて脂肪から先に使われるようになります。
それと同時に、煎茶に含まれるカテキンが、脂肪の消費に関わる消化酵素の働きを活性化するため、新たな脂肪の蓄積も防いでくれます。
運動前の煎茶は熱湯で、いつもより間合いを長くとった、苦味・渋味のきいたものを飲むようにすると、より多くのカフェイン・カテキンを効率よく摂取することができます。
トレーニング前に煎茶を飲む場合の注意点があります。それは、量を飲みすぎないことです。煎茶に含まれるカフェインには利尿作用があり、摂取しすぎると体内の水分を排出しすぎてしまい、運動中の脱水を早める危険性があります。
また、甘いものを一緒に食べたくなりますが、脂肪分の多いチョコレートや食物繊維の多いドライフルーツなどは消化に時間がかかり、胃腸に負担を与えるため、カカオ成分多めのチョコレートを少し、またはバナナを一口など、その内容と量に注意が必要です。
デスクワークで疲れた目をスッキリさせる煎茶湿布
煎茶に含まれるカテキンには殺菌・消毒作用がありますが、これを利用して疲れ目をケアする方法が煎茶湿布です。
いつも通りに入れた煎茶に、ひとつまみの粗塩を加え、常温まで冷ましたら、ローションパックの要領でコットンにたっぷり含ませて、まぶたの上に乗せます。長時間パソコンの画面を眺めて、疲れでむくんだまぶたがスッキリします。
民間療法的な使い方としては、目やにが出て目がかゆい時には、煎茶液で直接眼球を洗うという方法もあるようです。カテキンの殺菌作用が、目のかゆみの原因である細菌や花粉の除去に一役買っていると考えられています。
ただし、「洗眼」自体の良し悪しについて、眼科医の間でも賛否両論あるため、湿布にとどめておくのが良いでしょう。
煎茶の茶殻を再利用した煎茶洗顔法
煎茶は、緑茶の中でも特にビタミンCの含有量が多いのですが、お茶として飲む抽出液には、本来含まれているビタミンCの4割程度しか溶け出さず、残りは茶殻として捨てられてしまいます。
茶殻には、他にもカテキンなど美容や健康に良いとされる成分が含まれています。そのまま捨てるのは、あまりにももったいないと思いませんか?
そこで、毎日の洗顔後に手軽にできる、美肌を作るお手入れ法をご紹介します。洗面器に水を張り、そこに3〜5gの茶殻を入れた洗顔用煎茶液を準備します。洗顔後、煎茶液を茶殻と一緒にすくい上げ、煎茶エキスを肌に浸透させるように手の平でパッティングします。
すると、ビタミンCが持つ美白効果に加え、カテキンの殺菌作用により、ニキビや吹き出物が改善します。また、お肌を引き締めるため毛穴も徐々に目立たなくなります。ぜひ毎日の習慣にして、美肌を手に入れましょう。
煮出した煎茶でかぶれ知らず!ベビーのお世話や介護の現場でも煎茶が活躍
子育てや介護の現場こそ、カテキンの持つ殺菌力を最大限に発揮できます。乳児期の頻繁なおむつ替えや、在宅で寝たきりの方の清拭など、特に清潔を保ちたいお世話の場面には、煎茶をしっかり煮出した煎茶エキスを使ったケアをお勧めします。
麦茶と同じように、やかんを使ってグラグラと煮出した液を、人肌くらいまで冷まして使います。
煎茶エキスは、あらかじめぬるま湯を含ませた柔らかい布やタオルで、汗や汚れを拭き取った後、お手入れの仕上げとして使います。
赤ちゃんのおむつかぶれなど、皮膚が赤くなっている箇所は、ガーゼに煎茶エキスを含ませたもので優しく拭き、また、湿疹がみられる場合はこすらず、ガーゼでパッティングしてあげると良いでしょう。
カテキンには炎症を抑えて肌表面をサラサラに保つ効果がありますので、煎茶エキスを繰り返し使うことで、かぶれや湿疹などの肌トラブルの解消が期待できる上、殺菌効果で不快な臭いの元となる雑菌の繁殖も抑えてくれます。
赤ちゃんと外出するときには、一回分ずつにカットしたガーゼを密閉できる容器に入れ、煎茶エキスをたっぷり含ませたものを持っていくと便利です。市販のお尻ふきに含まれる添加物が心配な敏感肌の赤ちゃんにも安心して使えます。
日本各地に残る自生の山茶を飲む文化
各地の人々の暮らしに根付いた山茶は、江戸時代の暦にも登場
日本における茶の歴史は、鎌倉時代初期の禅僧である栄西によって持ち込まれたのが始まりと言われています。ですが、それより古い時代から、山に自生していた茶を煎じて飲む習慣が存在していたと考えられています。
というのも、古くから伝わる緑茶を使った民間療法に用いられているのは主に番茶で、栄西が持ち帰った抹茶とは製法も入れ方も異なっています。したがって、中国から伝わったものとは源流が異なる緑茶文化が、我が国にも育っていたと考えられています。
関東より南の丘陵地帯や山間部には、昔から茶の原料となる木が自生していました。「山茶」を正式名称とする植物はありませんが、人々は山に自生する茶を総称して山茶と呼び、その葉を摘んでは加工し、番茶(晩茶とも言う)として飲み続けてきました。
当時は自家消費用として、農閑期に細々と収穫、加工していたようです。また、加工方法は、その地方によって異なっていました。茶葉を乾燥させる方法にも、天日干し、火で炙るだけでなく、煮る、蒸すなどの一手間を加えてから乾燥させる地域もありました。
また、熱を加えてから茶葉を揉むという、現代の煎茶加工に通じる方法を採っていた所もあったようです。
山茶という言葉が、日本人の暮らしに根付いていたことは、江戸時代の官製暦である『貞享暦』を見ると分かります。
貞享暦は、渋川春海が中国の暦を元に、日本と中国との季節感や風土の違いを加味して編纂したもので、1年を72の候に分け、それぞれ、気象の変化や動植物の動きで表す短文が添えられています。
立春から数えて55候目に、「山茶始開(山茶はじめてひらく)」という時候があるのですが、これは中国の暦では「水始氷(水はじめてこおる)」という時候で表現されています。
渋川は、中国と日本との緯度差から生じる季節感のズレを修正し、日本らしい表現として山茶の文字を取り入れました。
ちなみに、この「山茶」の読み方は様々な変遷があり、現在では「さざんか(山茶花)」と読まれていますが、明治時代には「つばき」と読まれることが多かったようです。
なお、“さざんか”も“つばき”も、同じツバキ科で、花や葉の形状もよく似ていますが、渋川春海の貞享暦に登場した「山茶」は、秋から冬にかけて花を咲かせる“さざんか”を指していたものと思われます。
現代に伝わる山茶の風習
山に自生する茶を飲む習慣は、日本各地に様々な形で残っています。その土地の風習を今に伝え、郷土料理の一つとして珍重される一方で、後継者不足などで徐々に伝統が途絶えようとしているものもあります。
●かっぽ茶
宮崎県の高千穂地方では、山仕事の合間に手近な青竹を切り、節を抜いて清水を入れ、直接焚き火に入れてお湯を沸かして、そこに山茶を入れてお茶を抽出して飲んでいました。
飲む時に竹筒を傾けると、カポカポと音がなることから「かっぽ茶」と名付けられました。青竹の香りが移り、非常に爽やかな味わいが楽しめます。
●阿波番茶
徳島県南西部の相生町を中心に、古くから伝わる乳酸発酵茶が「阿波番茶」です。晩摘みの硬い茶葉は、釜茹でした後柔らかくなるまで揉捻して、樽で漬け込んでからしっかり乾燥させます。日本では珍しい微生物発酵茶ですが、癖の少ないまろやかな酸味と旨味が感じられます。
●碁石茶
高知県の山間部にも、古くから伝わる微生物発酵茶があります。大豊町の「碁石茶」は、かつては各家庭で作られ、名産品としても知られていましたが、造り手の後継者が不足し衰退、現在は幻のお茶とも呼ばれています。
摘み取った茶葉を蒸した後、むしろ(敷物)の上で一次発酵させます。その後蒸し汁とともに桶に漬け込み、10日ほど二次発酵を行ったら、漬け込まれた茶葉の塊を3cm角くらいに切り分けて天日干しして完成です。
天日干しの際、整然と並べられている様子が、黒の碁石のように見えることから碁石茶の名前が付けられたと言われています。
●ぼてぼて茶
島根県松江地方に伝わるお茶の飲み方が「ぼてぼて茶」です。その起源には諸説ありますが、かつて奥出雲のたたら製鉄の職人たちが、高温で過酷な環境下での作業の合間に流し込み、簡単に満腹感を得るための間食だったと言われています。
大きめのお茶碗に、陰干しした茶の花を加えて煮出した番茶を入れ、穂先に塩をつけた長めの茶筅で、熱いうちによく泡立てます。そこにご飯や椎茸、黒豆や高野豆腐といった煮物や漬物などの具を加えたら完成です。
お箸は使わず、お茶碗の底を軽く叩いて具を寄せて、番茶と一緒に口の中に流し込むようにいただきます。
ぼてぼて茶で使われる番茶は、10月下旬〜11月初旬の山茶の花が咲く頃に、茶葉を枝ごと収穫して軒先で干したもので、使う分ずつ鍋や釜で炒ってから煮出します。この製法は松江周辺で伝統的に行われているものです。
●美作番茶
岡山県の美作(みまさか)地方で、古くから作られている煮干し番茶が「美作番茶」です。
7月下旬から8月上旬、土用の暑い最中に、硬くなった茶葉を枝ごと刈り取ります。それを大きな釜で煮込むと、簡単に枝と茎や葉を分けることができるようになります。枝を除いてから、むしろ(敷物)の上に広げ、煮汁をかけながら炎天下で乾燥させれば完成です。
そのまま煮出しても、飲むたびに軽く炒りほうじ茶にしても、まろやかで美味しくいただけます。
●足助寒茶
愛知県の紅葉の名所である香嵐渓の近くには、冬の寒い時期に番茶を作る風習があります。
一般的な茶畑では、翌年の収穫に備えて秋に整枝を行いますが、そのままにしておくと、冬には肉厚で栄養を多く含んだ葉になります。これを枝ごと摘み取って茹で、葉の部分を選り分けてから天日乾燥させたものが「足助寒茶」です。
このように、日本には、その地方ごとに古くから伝わる番茶がありますが、作られる時期や製法、入れ方や飲み方に至るまで、その土地ならではの特徴が見られます。ご旅行など、機会があれば飲み比べしてみるのも楽しいでしょう。