緑茶は、日本人の食卓には無くてはならない飲み物で、長い歴史を持っています。ところが近年、緑茶は気軽にコンビニや自動販売機で買って飲むものへと、私たちの意識が変化しつつあります。
そこで改めて、緑茶を飲むことで得られる身体への効果について見ていくとともに、生活の中で緑茶を取り入れることができる、あらゆる場面を提案したいと思います。最も身近な飲み物である緑茶を見直すことで、もっと飲みたくなるはずです。
朝のスムーズな目覚めに、朝茶の習慣を持とう
濃いめの煎茶で、朝の頭と身体に目覚めスイッチ!
緑茶は日本人の暮らしに深く根付き、日々のあらゆる場面で欠かせない飲み物ですが、朝の目覚めの一杯にも緑茶を召し上がってみませんか?
緑茶に含まれているカテキンとカフェインは、頭と身体をシャキッと目覚めさせる効果があり、朝茶を習慣化することで、生活リズムを整える効果があります。
まず、寝ぼけた胃や腸に温かい緑茶が流し込まれることで、身体を内部から目覚めさせて食欲を起こさせます。また、緑茶に含まれるカテキンには、腸のぜん動運動を活発にするなどの整腸作用があるため、朝のお通じにも効果があります。
そしてカフェインには、脳に働きかけて眠気を覚ます覚醒効果があります。カフェインとカテキンが生み出す緑茶の苦味や渋味も、気分をリフレッシュさせて目覚めのスイッチを押してくれる効果があります。
朝の目覚めの一杯には、煎茶がお勧めです。その中でも、カテキンやカフェインの含有量が多い「普通煎茶」を選ぶと良いでしょう。
成分を十分に抽出するためにも、入れる際には、お湯の温度を高めにして、いつもよりも間合いを長く取り、濃いめの煎茶を召し上がってみてください。
風邪気味だったり、二日酔いなど、濃いめの煎茶を胃が受け付けない朝にお勧めしたいのは、鹿児島・指宿の郷土料理「茶節(ちゃぶし)」です。
鰹節と麦味噌をお茶碗に入れ、煎茶を注いでかき混ぜたもので、お好みでねぎや生姜を加えたり、砂糖や塩で調味して、朝ご飯がわりにいただく一杯です。
古来より朝茶は、災いを防ぎ幸運を招くと考えられていた
日本では古くから朝にお茶をいただく「朝茶」の習慣がありました。身体を中から目覚めさせる効果にとどまらず、朝に一杯のお茶を飲むことが幸運を呼ぶと言われていたことは、朝茶にまつわる諺を見るとよく分かります。
例えば、以下のような諺があります。
・朝茶に別れるな(朝一番のお茶は縁起ものであるため、忘れずに飲め)
・朝茶は七里帰っても飲め(朝のお茶を飲み忘れて旅に出たなら、七里の距離を戻ってでも必ず飲むべきである)
・朝茶は福が増す(朝にお茶を飲むと、その日一日災いから逃れられる)
心身の健康にも効果的な朝茶習慣、今からでも始めてみてはいかがでしょうか?
準備は簡単です。お盆の上に、煎茶の茶葉と急須、お茶碗、そして保温できるステンレス製のマグやポットに熱湯を入れた「朝茶セット」を作っておくだけです。朝からお湯を沸かす手間がなくなり、朝茶習慣がスムーズに身につくことでしょう。
仕事中も緑茶でホッと一息
長時間のデスクワークによるストレスにはカフェインが効果的
かつて日本人は、野良仕事の合間の朝10時と午後3時に、お茶を飲む習慣がありました。ちょっとした間食を取りながら疲れを取る大切な時間でしたが、オフィスでのデスクワークが多い現代、1日2回休憩をしっかり取っている人はどれだけいるでしょうか。
朝から晩まで外で肉体労働をしていた時代と、デスクワーク中心の今私たちが感じる疲労感はその種類が違います。
長時間パソコンに向かう目や脳の疲れや、組織における人間関係、コミュニケーションによる精神的ストレスは、一見目に見えませんが、長い時間をかけて蓄積されていくため、仕事中に適度な休憩を挟むことが必要不可欠となります。
疲れの種類によって、休憩の仕方も変わってきます。肉体疲労だけであれば、少しの時間目を閉じて仮眠を取るだけでも効果がありますが、精神的なだるさやイライラを和らげるためには、緑茶に含まれるカフェインの力が大いに役立ちます。
カフェインを摂取すると、脳に働きかけ一種の興奮状態にするため、集中力を保ち、疲労感を軽くする効果があります。また、覚醒作用や血行の促進、胃液の分泌を促すなど、様々な作用をもたらします。
したがって、カフェイン飲料を飲むと、気分がシャキッとして、休憩後の仕事の生産性が上がるわけです。
カフェインが多く含まれている飲み物と言えば、コーヒーをまず思い浮かべると思いますが、緑茶の茶葉はコーヒー豆の2~3倍ほどのカフェインを含んでいます。
抽出液のカフェイン含有量は、コーヒー一杯、緑茶一杯にどれだけの豆量、茶葉量を使うかで変わり、豆と茶葉ではカフェインの抽出度合も異なるため、正確には何とも言えませんが、標準的な分量で入れると、玉露を除けばコーヒーの方が多いと思われます。
しかし、緑茶の利点としては、入れ方によって成分の抽出濃度を簡単に調整することができるため、その時々の自分のコンディションに合わせることができます。そういう意味では、オフィスの休憩タイムに相応しい飲み物と言えます。
茶葉に含まれる成分をどれだけ抽出するかは、「使用するお湯の温度」と急須にお湯を入れてからお茶碗に注ぐまでの「間合い」により変えることができます。眠気が強いと感じる日には、熱いお湯で少し長めに間合いを取ると、カフェインが多目に抽出できます。
同じ茶葉を使って味のバリエーションを広げられるのは、緑茶ならではでしょう。
近年、急性カフェイン中毒の患者が急増するなど、カフェインの過剰摂取による弊害について、新聞やTVニュースなどで報じられています。カフェインは適量を摂取してこそ効果があることは言うまでもなく、摂りすぎには注意が必要です。
カフェイン含有量がマイルドな緑茶を、オフィスでの相棒にしてみてはいかがでしょうか?
疲労感がピークの時に、濃いめの煎茶をいただく時には、甘納豆やきんつばなど甘味が強い和菓子をお茶請けにしましょう。煎茶に含まれるカテキンやカフェインから胃粘膜を守るだけでなく、血糖値を上昇させることで疲労回復にさらなる効果が期待できます。
疲れを溜めないためには、ミネラル分の多い玉露も効果的
中には、カフェイン含有量の多い飲み物が苦手という方もいらっしゃるでしょう。長時間のデスクワークで疲れた脳の疲れをほぐすためには、カフェインで刺激を与える以外にも方法があります。
それは、疲労回復に欠かせない成分であるミネラルを摂取することですが、野菜や果物を休憩中に食べる訳にもいきません。
そんな時には玉露をお勧めします。玉露は、緑茶の中で最も多くミネラル分を含んでいます。
疲れが溜まると、体内の細胞からはビタミンやミネラルが失われます。すると、体液の電解質バランスが崩れ、体調不良を引き起こすと言われています。日頃からお茶の時間にミネラル分を補給しておくことが、疲労の予防に役立つのです。
また、玉露の持ち味である濃厚な旨味は、アミノ酸の一種「テアニン」によりもたらされています。このテアニンには、高いリラックス効果があり、ストレスの緩和にも役立つことが分かっています。
もちろん玉露にもカフェインは含まれていますが、テアニンには頭痛や動悸といったカフェインの副作用を和らげる働きがあるため、カフェインが効きすぎるという方にも安心です。
仕事の休憩中に玉露を入れる時は、お客様へのおもてなしで入れる玉露よりもお湯の温度は高め、間合いも長めに取ってみましょう。
甘味のテアニンばかりが際立つのではなく、カテキンの渋味やカフェインの苦味も十分に感じられ、疲労回復に効果の高い一杯がいただけます。
緑茶を手軽に飲める時代だからこそ、心を込めて緑茶を入れる機会も大切にしたい
その昔、日本の会社にはお茶くみの習慣があり、主に女性社員がその役目を担っていました。しかし、男女雇用機会均等法の施行から30年余りが経過し、女性がお茶を入れるものという固定観念も無くなり、また、それぞれが飲みたいものを用意すれば良いという考え方が定着してきました。
職場のお茶くみが激減した背景には、チェーンのコーヒー店で出勤途中に好みのコーヒーをテイクアウトしたり、エコの観点からマイボトルを持参する人が増加したことも挙げられます。
コンビニエンスストアで、様々な種類のペットボトル入り緑茶飲料が、手軽に買えるようになったことも大きいでしょう。
こうしたライフスタイルの変化が、企業での働き方の多様化も相まって、決められた時間に一斉に休憩を取る文化から、それぞれが業務の合間に緑茶やコーヒーで一息つく文化へと変わるきっかけを作ったとも言えます。
ですが、緑茶を入れることが本来持っている意味や効果を忘れないで欲しいと思います。
例えば煎茶道では、煎茶をお出しする際、お盆や菓子器を胸の高さに掲げるのが良いとされているなど、お稽古としてのお茶のお作法には、心を込めて美味しいお茶を入れ、それをお客様にお出しするという、おもてなしの心が反映されています。
今や、コインを入れれば、自動販売機や給茶器から勝手に緑茶が出てくる、あるいはコンビニで雑誌やお菓子と一緒にペットボトル緑茶を買うというイメージが強いですが、丁寧に入れた緑茶をお客様にお出ししたり、入れてもらった緑茶を感謝の気持ちとともにいただく機会も持ち続けたいものです。
お客様に、家族に、緑茶をふるまう場面で心がけること
緑茶の種類は、お客様がいらっしゃる季節と時間帯を考えて選ぶ
お客様をお迎えする時に、どのような緑茶を、どんな茶器でお出しするか、また、お茶請けに何を選ぶかは、その方の緑茶に関するセンスや知識をはかるバロメーターになります。
おもてなしのスキルの有無は、その方そのものの評価にも関わりますので、疎かにはできません。
まず考慮すべきは「季節」です。夏にお迎えするお客様は、暑い中をわざわざお越し下さった訳なので、最初に冷たい煎茶や玉露をお出しすれば、汗をかいた体がすっと冷えて、人心地ついていただけます。
春や秋には、季節感あふれる煎茶をお出ししてはいかがでしょうか。
本来の茶摘みは5月初旬から行われますが、それに先立ち4月上旬になると、九州地方の産地で茶摘みが始まり、八十八夜と同じ頃に市場に出回ります。これを「走り新茶」と言い、いち早く若葉の香りと美しい水色を楽しんでいただけ、また会話の糸口にもなるでしょう。
秋には「蔵出し新茶」もあります。5月に収穫した新茶を冷凍保存して、秋にも香り高い新茶を楽しめるようにしたもので、近頃はデパートやスーパーの店頭でも見かけるようになりました。
また、冬の寒い中をお越しいただいたお客様には、身体を暖められる熱い緑茶が喜ばれます。来客には玉露か高級煎茶と杓子定規に考えず、TPOに合わせて玄米茶や番茶など、普段使いのお茶を選ぶのも、おもてなしのテクニックの1つです。
次に考慮すべきは「時間」です。例えば、夏の昼食後ほどなくお越しになったお客様には、玉露を選ぶと良いでしょう。玉露は、冷茶、人肌のもの、どちらも少量を味わいつつ飲むタイプの緑茶です。食後、まだお腹がこなれていないお客様にとって最適の一杯となります。
一方で、夏の昼下がり15時前後にお客様をお迎えするなら、たっぷりの緑茶とお茶請けのお菓子をお出ししたいものです。
緑茶の種類は、煎茶や深蒸し煎茶などの冷茶がお勧めです。大きめのタンブラーにたっぷり注いでお出しします。また、煎茶の爽やかな苦味とのバランスを考え、お茶請けのお菓子は甘味の強いものを選びましょう。
長く滞在されるお客様には、緑茶の種類を変えて2杯目をお出ししよう
ついつい話が盛り上がり、お客様の前に置かれたお茶碗が空のまま、なんて経験はありませんか?長時間滞在されるお客様には、2度目のお茶を入れて差し上げましょう。緑茶の種類は時と場合によりますが、1度目とは違うものをお出しする方が親切です。
例えば、到着された時は食後すぐだったので、玉露を小さいお茶碗でお出ししたという場合でも、2時間近く歓談した後には喉が乾いているでしょう。
そんな時に水分補給と気分転換を兼ねて、さっぱりしたほうじ茶や玄米茶、または煎茶を、お茶請けと共にお出しできると気が利く印象を与えます。
2杯目のお茶をお出しするタイミングは、意外と難しいものです。お客様との話が弾んでいる最中に、お茶を入れるために中座するのは、一般的にはマナー違反だと言われていますが、煎茶道のノウハウを活かしたちょっとした工夫で、スマートに振る舞うことができます。
煎茶道のお稽古を始めたばかりの初心者が、まず習うと言われているのが「盆点前」です。
流派により呼び名は様々ですが、いずれも、お点前に必要な道具を全てお盆の上に揃えてから煎茶を入れます。お盆ごと色々な場所に持ち出して、その場で手軽に煎茶を楽しむことができる方法です。
この盆点前と同じように、急須、茶筒と茶さじ、3〜5人分のお茶碗の他、茶こぼしや布巾などを、見栄え良くお盆にセットしたものに布巾をかけ、お客様がいらっしゃる前に準備しておきます。
給湯ポットも揃えておけば、お客様との会話の中で最適なタイミングを見計らって2杯目の緑茶をお出しすることができるでしょう。
お客様にお出しする緑茶の種類は、あくまでお客様のご都合やお好みに合わせて選ぶため、お茶請けも各種取り揃えておくとベターです。
日持ちのする羊羹は便利ですが、それ以外にも、どら焼きや最中、またお煎餅など、甘いものと塩辛いものをバランスよくストックしておくと、お出しする緑茶に合ったお茶請けをいつでも用意することができます。
また、お客様から手土産としてお茶菓子をいただく場合もあるでしょう。その時は、いただいたお茶菓子から2杯目にお出しする緑茶を選んでみませんか?もしそれがクッキーやケーキなどの洋菓子なら、緑茶だけでなく紅茶やコーヒーも選択肢に入ってきます。
お客様とあなたが近しい間柄ならば、ぜひ「お持たせですが」の一言を添えて、お出ししてみましょう。その方がこだわって選んだお菓子であれば、なおさら話題に花が咲くことでしょう。
15時のお茶を家族の習慣にしよう!
皆さんには、お客様がいらっしゃる時だけではなく、日頃から丁寧に緑茶を入れて、相性の良いお茶菓子とともに楽しむ機会を持って欲しいと思います。
また、ご家族で楽しむ場合でも、毎回同じ種類の緑茶を入れるのではなく、お茶菓子に合わせたセレクトをしたいものです。
そのためにも、何種類かの茶葉を常備しておくと良いでしょう。来客にも対応できる上級煎茶や玉露、日常使いに適した深蒸し煎茶や被せ茶、また玄米茶やほうじ茶など子供でも飲みやすいものまで、小分けにして冷暗所で保存しておくと便利です。
15時のお茶を家族で楽しむ習慣が定着してくると、お茶菓子と緑茶の相性にも詳しくなり、やがては緑茶に合わせた茶器を選びたくなるなど、楽しさが増してくるはずです。
日持ちするお菓子、その日のうちに食べ切るお菓子
「朝生菓子」という言葉をご存知でしょうか?毎朝職人が作って、その日のうちに食べる生菓子のことで、例えば大福やお団子、桜餅や柏餅、葛餅など、私たちに馴染み深い生菓子のほとんどが朝生菓子の仲間です。
餅米などでんぷんを多く含むこれらの生菓子は、時間が経つと硬くなってしまうため、朝一番に作って、日をまたがずに食べていただくことから、朝生菓子と呼ばれるようになりました。
緑茶との相性も抜群ですので、朝生菓子が手に入ったら上質の煎茶とともに味わいたいものです。
羊羹やういろう、お饅頭などは比較的日持ちがする和菓子です。いずれも生地の色味や素材、ディテールが季節や暦に応じて変化するのが特徴です。様々な素材を使った豊富なバリエーションは、いついただいても、目にも舌にも新鮮で、飽きることがありません。
伝統的な日本産の砂糖である「和三盆」を使った和菓子と言えば「干菓子」です。干菓子は、水分含有量が少なく日持ちする和菓子の総称ですが、中でも、木型を使って成形する「打物」と呼ばれるお菓子は、お茶請けとして重宝されています。
木型には様々な種類があり、日本の四季を彩る様々なものをかたどっています。また、玉露との相性が良いことでも知られていますので、干菓子で季節感を取り入れつつ、和三盆のまろやかな甘味と玉露の旨味を堪能してみてはいかがでしょうか。
お茶請けは、これまで述べたような和菓子ばかりではありません。かりんとうや金平糖のような駄菓子や、塩味のきいたお煎餅も欠かせませんし、お漬物や果物、菓子パンなども、緑茶との相性は抜群です。
堅苦しく考えず、自由な組み合わせを楽しんで欲しいと思います。
緑茶とお茶菓子をお出しするルール、いただくマナー
日本の食卓には、様々な決まりごとがあります。食器の並べ方ものその一つで、例えば主食であるご飯茶碗は向かって左側に、汁物は右側に並べます。緑茶とお茶請けのお菓子の並べ方には、同じように厳格なルールが存在するのでしょうか?
実は、緑茶とお菓子の並べ方は、和食膳ほど厳しい決まりで縛られている訳ではありません。ですが、緑茶とお菓子のうち、先に食べて欲しいものを利き手側に並べることをお勧めします。
国や性別によって多少の違いはありますが、右利きの人が圧倒的多数を占めていますので、まず味わって欲しいものをお客様の右手側にお出ししましょう。
とっておきの玉露をお出しする場合など、緑茶がおもてなしの要であればお茶碗を右に、こだわって準備したお菓子や季節感あふれる果物をお出しするなら、菓子器を右に配置すれば、まず最初に口にして欲しいものがさりげなく伝わることでしょう。
また、お茶碗を持ち上げる時には、茶托は一緒に持ち上げません。そしてお菓子は、銘々皿などで出された場合にはお皿ごと持ち上げ、手のひらで支えながら楊枝を使って切り分けながらいただくようにしましょう。
茶道のお稽古とは違いますので、お菓子の種類によっては、手で持って口に運んでも構いません。なお、食べ終わったお皿が汚れていたら、懐紙などで拭っておくのがスマートです。
水分補給の手段としての緑茶の利点と注意すべきこと
人間が健康を維持するために、水分補給は重要である
私たち人間の身体の大部分は水分でできており、成人では体重のおよそ60%が体液と呼ばれる水分でつくられています。
体液は、栄養分を運搬したり、老廃物を排出したり、また体温調節を行うなど、人間の生命を維持する様々な役割を担い、私たちの健康を維持するのに役立っています。
汗や呼吸、排泄などで人間が1日に失う水分量はおよそ2.5Lと言われており、私たちはそれと同量の水分を必要としています。そのうち40%は食べ物に含まれる水分から、残り60%は汁物や飲み物から体内に取り込まれます。
喉が渇くというのは、体が水分を欲しているサインです。速やかに水分補給をするべきですが、水分であればどのようなものでも良いという訳ではありません。
例えば、暑いからといって冷たい緑茶をがぶ飲みするのは、逆に胃腸に負担をかける場合があります。
また、汗をあまりかかない冬の日に暖かい緑茶をたくさん飲むと、緑茶に含まれるカフェインの利尿作用によって、かえって体内の水分量を減らしてしまうことに繋がりかねません。
東洋医学の見地から考える身体に良い緑茶の飲み方
東洋医学の考え方では、食べ物には身体を温める食品(陽性)と、身体を冷やす食品(陰性)、そしてそのどちらでもない食品(平性)の3つに大別できるとされています。これは中国で発達した陰陽説という考え方に基づいています。
陰陽説とは、「天と地」、「男と女」など、この世界に存在する相反するあらゆるものを「陰」と「陽」というものさしに当てはめる考え方で、この陰と陽が対立と補完を繰り返しながら世界を形作っているとされています。
緑茶は、この考え方の元では陰性の食品に分類され、身体を冷やす食品と考えられています。ちなみに、原材料は同じでも、完全に発酵させた紅茶は、身体を温める陽性の食品となります。
東洋医学では、人間も、その体質によって陰陽の2種類に分けられると考えられています。「寒証(陰)」の人は低血圧、冷え性で寒さに弱く脂肪を溜めやすい体質で、「熱証(陽)」の人は高血圧で暑さに弱く、アレルギーになりやすい体質とされます。
寒証の人が陰性の食品、また熱証の人が陽性の食品を摂りすぎると、体調を崩してしまう危険があると考えられており、気をつけなければなりません。例えば、寒証の人が冷やした緑茶をがぶ飲みすると、身体を冷やしすぎてしまうというものです。
ですが、このような体質と食品の相性の悪さは、温めたり冷やしたりといった調理法の工夫で緩和することもできます。
身体が冷えやすいタイプの人なら、暑い時期でも緑茶は温かいものを飲むのが良く、冷たいお茶が飲みたい時には、緑茶やウーロン茶ではなく紅茶をセレクトすると、身体の不調を起こしづらくなります。
一方で、アレルギーになりやすく、のぼせやすい体質の人が、寒い日に温かい緑茶を飲みたくなったら、ぬるめのお湯で入れる玉露や高級煎茶がお勧めです。熱湯で入れるほうじ茶や番茶は、熱証の人の身体には良いとは言えません。
このように体質と食品、そして調理法のバランスを取ることで、健康的な生活を送ることができるというのが東洋医学の教えであり、科学的な西洋医学から見ても的を得ていることが多々あります。
緑茶とお茶請けの食べ合わせで、陰陽の影響をマイルドに変えられる
では、食品同士の相性は、東洋医学ではどうでしょうか。食品の場合は、陰と陽、二つの相反する性質を持つ食材同士を組み合わせて調理したり、同時に食べたりすることで、お互いの欠点を補完し、良い面は伸ばすという効果が生まれます。
緑茶のお供である和菓子の一つ「ぼた餅(おはぎ)」は、もち米にうるち米を混ぜて炊き、すりこぎでつぶして丸めたものに小豆あんをまぶしたものです。
原材料を分類すると、もち米とうるち米は陽性、小豆は平性で、砂糖は陰性の食品です。すなわち、陰陽の原材料が一つにまとまったお菓子であることが分かります。
陰性である緑茶を冷茶にして飲むと、寒証の人の場合身体を冷やしすぎてしまいますが、お茶請けとしてぼた餅をいただくと、陰(緑茶)と陽(米)が互いに作用しあい、身体への影響が緩和されます。
餅菓子と組み合わせることで、どんな方でも心置きなく冷たい緑茶を楽しんでいただける訳です。
緑茶は健康的な飲み物ですが、健康食品ではないことは言うまでもありません。その効果・効能にあまりとらわれることなく、美味しいと感じるものを適量楽しむことが、何よりあなたの心と身体を癒してくれるでしょう。
緑茶は優秀なスポーツ飲料である
昭和の時代、科学的根拠の無い気合いと根性の精神論から、運動部の選手たちは練習中に水を飲むことを制限されていました。しかし現在では、脱水状態になると競技のパフォーマンスが下がることが周知されており、むしろこまめに水分を摂るよう指導されています。
スポーツ時の水分補給にも、緑茶は非常に有効です。緑茶は、水分だけでなく、汗とともに失われたミネラル類を補充してくれます。また、疲労回復を助けるビタミンB1や、代謝を助け、身体の発育に役立つビタミンB2などビタミン類も含まれており、スポーツ飲料としても優秀です。
そして、緑茶に含まれるカフェインは、中枢神経に働きかけて疲労感を軽減させ、集中力を高める働きがあります。筋肉のエネルギー効率を高め、脂肪燃焼を促進させる効果もあり、スポーツをする人にはお勧めです。
なお、カフェインは、2004年以降はドーピングの禁止物質から除外されていますので、スポーツ選手でも安心して緑茶を好きなだけ飲むことができます。
食前、食事中の緑茶の選び方、楽しみ方
お茶会や食事の前には、口の中をさっぱりさせる代わり茶
お茶会の待合の席や、料亭に着いた時に、代わり茶やお白湯がよく振舞われますが、これは、美味しいお食事をこれからいただくにあたって、あらかじめ口の中をさっぱりと整える効果があります。
これはいわば、食前茶とも呼べるもので、食欲を誘う食前酒とは異なり、口の中を食事を受け入れる状態にする役割があります。
苦渋味が主張する濃いめの緑茶よりも、軽い塩味の桜湯や香煎といった代わり茶の方が、その後の食事に響くことがないため、より食前にふさわしい飲み物だと言えます。
緑茶を選ぶ場合でも、玉露や上級煎茶など甘味が際立つものや、玄米茶やほうじ茶などあっさりとした味わいのものが良いでしょう。
食事中には、食欲を増進させる冷たい煎茶、ほうじ茶
では、食事が始まってから飲む緑茶は何が良いでしょうか?
緑茶に含まれるカテキンには、胃を収縮させる働きがあり、満腹感に繋がってしまいます。食事の途中にいただく緑茶は、食欲を増進させる狙いのあるカテキンの少ないものを選びましょう。
カテキンは、80℃以上の高温のお湯で入れると大量に抽出される特性があるので、熱々のお湯で入れた煎茶などは食事中には不向きです。煎茶であれば、いつもより低めのお湯で入れた煎茶をさらに冷やしたものが良いでしょう。
また、温かいお茶が良い場合、製造工程においてカテキンの含有量が少なくなっているほうじ茶が良いでしょう。
小さい子供やお年寄り、ご病気の方が、食事中に飲むお茶の選び方と注意点
食事中に飲む緑茶を選ぶ際、特に気をつけるべきなのは、幼児やお年寄りの方、病気にかかっている方々が飲む緑茶です。
緑茶には、カフェインなど、神経や胃腸に働きかける成分が含まれているため、病気の方やお年寄り、幼児には、刺激が強すぎる種類もあります。
ほうじ茶や番茶は、カフェインの含有量が少なく、またあっさりとした味わいで、保育園や幼稚園の給食、また病院での食事時のお茶として選ばれています。
給食の準備は、人数も多く時間との勝負でもあり、こまめにお茶を入れている暇はないかもしれませんが、ほうじ茶や番茶の作り置きには要注意です。
緑茶はそもそも長期保存に向かない飲み物です。ましてや保温ポットに入れて数時間経った緑茶には、雑菌が繁殖しています。給食用の緑茶は、なるべく飲む直前に入れるように心がけたいところです。
寿司屋で食事中に粉茶が出される理由
お寿司屋さん(回転していないお寿司屋さん)で出される「あがり」は粉茶といい、緑茶の製造過程で出た茶葉の破片や茎の部分などをふるいにかけ、粉の部分だけを集めたお茶です。
竹製の茶こしに粉茶を入れて、直接湯のみにかざして熱湯をかけて入れます。そのため、高温で多く抽出される渋味成分のカテキンが大量に含まれたお茶になります。
お寿司を食べている最中に、渋味を効かせた粉茶をいただくのには訳があります。
脂がのったネタや、味の濃いネタを食べた後に、淡白で繊細な味のネタを食べることもあるお寿司屋さんでの食事中には、合間合間に口の中をさっぱりさせ、前のネタの味と魚の生臭さを消しておく必要があり、これには粉茶が適しています。
同じくお寿司屋さんで出されるガリも、同じく口の中をさっぱりさせる役割があります。さらに言うと、粉茶とガリにはもう1点、食中毒の予防という重要な役割があります。
粉茶のカテキン、ガリの原料である生姜には、殺菌効果、解毒効果があり、生魚をいただくお寿司で食中毒を起こさないようにという、昔の人の知恵と工夫が今も息づいているのです。
また、お寿司屋さんで使われている湯のみ茶碗が、厚手で大ぶりなのにも理由があります。
粉茶の温度が下がると、含まれるカテキンの働きが弱くなってしまうため、なるべく長時間温度を保たなければなりません。そこで、薄手の磁器ではなく、ぼってりと厚い陶器製の容量が大きい湯のみ茶碗が使われるようになりました。
言うまでもなく、お寿司屋さんの衛生管理はきちんとしており、食中毒が起こることは基本的にありません。食中毒の予防を粉茶に全面的に任せているわけではありません。
前述の通り、カテキンは胃に働きかけて、満腹感を得る効果が高い成分です。たとえ粉茶がなみなみと注がれたとしても、飲み干して粉茶でお腹をいっぱいにしてしまわないように注意しましょう。
なお、回転寿司においてあるものは、粉茶ではなく「粉末茶」というもので、茶葉を粉末状にしたものです(粉茶とは別物です)。
粉末茶は、客がセルフで入れることができるように開発されたお茶で、急須で入れるという店員さんの手間削減目的で開発されたものです。
茶香炉で香りを楽しみ、ほうじ茶としていただく
飲む以外にも、食事中に緑茶を楽しむ方法があります。最近人気のインテリアグッズ「茶香炉」を使って茶葉を加熱すると、香ばしい緑茶のアロマが立ち上ります。揺らめく炎もリラックス効果を高めてくれます。
そして食事が終わる頃には、炒りたてのほうじ茶が完成しており、食後の一杯がいただけ一石二鳥です。
ほうじ茶は、市販のものもありますが、炒りたての香ばしさに勝るものはありません。普通に飲んでもよし、また、食事のシメに、香の物を添えたご飯にたっぷりかけてお茶漬けにしても美味しいでしょう。
食後にいただく緑茶を選ぶポイント
食後の胃腸には、刺激の少ないほうじ茶や番茶がお勧め
食後にいただく緑茶は、「どんな食事をしたか」、「お酒を飲んだか」によって選ぶ種類が変わってきます。また、「もう満腹でリラックス気分」なのか、あるいは「まだ何かお腹に入れたい」のかによっても変わります。
揚げ物やお肉料理など、こってりしたものをいただいた後には、ほうじ茶がお勧めです。香ばしい香りが特徴で、苦渋味が少ないあっさりした味わいですので、食後の口の中をさっぱりとさせる効果があります。
食事のメニューと食後いただく緑茶の組み合わせには、「お寿司と粉茶」といった定番もありますが、基本的には、どんなメニューでも、あっさりとして飲みやすいお茶が合っています。
食後の胃腸には、カテキンやカフェインといった刺激の強い成分は少ない方が良いので、間合い(抽出時間)は気持ち短めに入れ、少なめの量をいただくようにしましょう。
お酒をいただいた後には、番茶がお勧めです。番茶は、晩摘みの煎茶全般を指しますが、一般的な煎茶と比べてカフェインの含有量が少ないため、苦味が少なくさっぱりした飲み口です。
お酒のシメにさらさらかき込むお茶漬けも、胃への負担が少ない番茶を使うのが良いでしょう。
また、食後にリラックス気分を味わいたいなら、玉露や被せ茶、茎茶といった甘味が主張する緑茶を選んでみてはいかがでしょうか。いつもよりお湯の量を多くして薄めに入れれば、テアニンの甘味をほんのり感じられるでしょう。
食後にお勧めのウーロン茶の入れ方を知ろう!
ウーロン茶は、食事で摂取した脂の体内への吸収を抑える効果があることで広く知られています。
中国茶の1つであるウーロン茶は、日本の緑茶とは違う独特な作法で入れます。まず、茶器は専用の「工夫(クーフー)茶器」を使います。これは、ウーロン茶を美味しく入れるために考案された茶器ですが、工夫茶器が無くても土瓶やティーポットでも美味しく入れることができます。
中国茶の入れ方の最も特徴的なものが「洗茶」です。温めたティーポットに茶葉を入れるまでは緑茶と同じですが、中国茶の場合はここでポットに熱湯をたっぷりと注ぎ、すぐにそのお湯を捨てます。
これを洗茶と言いますが、次に人数分のお湯を注いだ時に茶葉が開きやすくなり、お茶の成分を十分に抽出するのを助けます。
ウーロン茶の茶葉の量は、ほうじ茶や番茶と比べてやや多めの一人当たり5gほどを使います。またお茶碗に注ぐ量は一人分およそ130mLが適量です。洗茶で使う分も含め、お湯は人数分をさらに5割増しした量を用意します。
洗茶が済んだポットに沸騰したお湯を人数分入れたら、蓋をして30~60秒ほど間合いをとり、注ぎ分けます。
ウーロン茶の正式な入れ方では、味を均等にするために一度「茶海」と呼ばれる片口の器に受けてから、それぞれの茶碗に注ぎますが、緑茶を入れる時と同様に少しずつ順番に注ぎ回せば同じ濃さのウーロン茶になります。
食後に緑茶を飲むことで、口内環境が整えられる
食後に緑茶を飲むと口の中がさっぱりするのは、緑茶に含まれている成分「カテキン」の働きです。抗菌作用があるカテキンが歯に付着すると、虫歯の原因菌の活動を抑えたり、歯垢(プラーク)の生成を防ぐ効果が生まれます。
また緑茶には、ごく少量のフッ素が含まれています。フッ素もまた、虫歯の原因菌の活動や、歯垢が酸を生み出す働きを抑えてくれます。
緑茶にはこの他にも、口臭防止効果があり、口内環境を整えることができる飲み物ですので、食後に緑茶をいただく私たちの食習慣は理にかなっているのです。
食後のお茶タイムを負担感なく習慣にする工夫
リラックスタイムを演出し、同時に口の中をさっぱりとさせ、気分もリフレッシュさせてくれる緑茶を食後にいただく習慣は、ぜひご家庭でも大切にして欲しいものです。そのためにも、家族の誰もが美味しい緑茶の入れ方に親しんでいると、なお良いでしょう。
来客対応で提案したように、「盆点前」を参考にした「緑茶セット」を食卓近くに準備しておけば、手の空いた人がさっとお茶を入れることができます。
食後くつろぎたいのは誰も同じですが、準備の手間がかからないような環境を整えれば、負担感なく続けられるでしょう。
昔ながらのお茶の時間は家族の距離をぐっと近づける
近年、緑茶だけでなくコーヒーや紅茶などを気軽に飲める環境が整ってきています。
コーヒーチェーン店はあらゆる地域に進出し、また、コンビニエンスストアは様々な種類のペットボトル入り飲料を取り揃えています。昔と比べて格段にティータイムとの距離が近づいている印象です。
ですが、昔ながらの緑茶の楽しみ方も忘れないで欲しいと思います。好みの茶葉を選ぶところから始め、その緑茶に合うお茶請けのお菓子を準備し、お気に入りの器に丁寧に入れた緑茶を振る舞うという機会も大切にしたいものです。
ご家庭で定期的にお茶会の時間を設ければ、家族のコミュニケーションもますます深まっていくでしょう。
寝る前のリラックスタイムにも緑茶の出番あり
茶殻を再利用して楽しむお茶風呂も効果大
食事が終わったら、緑茶の出番もおしまいだと思っていませんか?
緑茶を使ってリラックスできる、とっておきの方法は「緑茶風呂」です。これは、朝の目覚めの一杯から夕食後の一杯まで、その日飲んだ緑茶の茶殻を使う方法なので、エコな再利用法でもあります。
水気を吸った茶葉は、葉に含まれるたんぱく質が腐りやすいため、緑茶を入れるごとに、急須に残った茶殻の水気を切って乾かし、ジッパー付のビニール袋などに入れて冷蔵庫で保存しておきます。
そして入浴する直前に、茶殻をガーゼに包むか、不織布の袋などに入れて、バスタブに浮かべておけば、緑茶の良い香りが浴室全体に漂います。
香りによるリラックス効果だけでなく、茶殻に残った緑茶の成分は、身体を芯から温め、疲労回復などの効果をもたらします。
冷えやむくみが気になる方は、お湯の温度を低めにして長めの半身浴も良いでしょう。冬だけでなく、冷房に弱いタイプの方は夏場にもお試しいただきたいと思います。
また、緑茶に含まれるカテキンやビタミン類には、美肌効果も期待できます。肌あれの気になる箇所を茶殻でマッサージしたり、茶殻を浸したお湯を使ってパックをするのもお勧めです。
眠りにつく前の水分補給に緑茶を飲むなら、ほうじ茶か番茶を少しだけ
緑茶にはカフェインが含まれており、寝る直前に飲んでしまうと、目が冴えるだけでなく、カフェインの持つ利尿作用により、夜中にトイレに起きるなど、安眠を妨げる可能性があります。
できるだけ眠る前には緑茶を飲まない方が良いですが、喉が渇いて水分補給したいという場合は、カフェイン含有量の少ないほうじ茶や番茶が良いでしょう。それでもガブガブ飲むのではなく、喉を潤す程度にとどめておきましょう。